小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1035 ムーミン電車とコスモスと 秋色を見に行く

画像
千葉県大原市に行った。いすみ鉄道の列車を見るのが目的だ。この鉄道は大原―上総中野間26・8キロという短い距離を結ぶ第3セクターの鉄道だ。一時は存続が危ぶまれたこの鉄道だったが、いまでは知る人ぞ知る路線なのである。 こんなニュースを覚えているだろうか。2年前のことである。いすみ鉄道は、訓練費700万円を採用時に自己負担するという思い切った条件でディーゼル列車の運転免許を取得できるという運転士養成プランを発表したのだ。大金を出して運転士になるという人がいるのだろうかと思った。だが、熱烈な鉄道ファンがいた。しかも働きざかりの40代―50代の男性4人が応募したのである。
画像
画像
彼らは訓練に耐え、ことし見事国土交通省の「資格試験」に合格、この夏から単独勤務を始めた。自分な好きなことに賭け人生を再出発した幸せな人たちが運転する電車は、1両編成で、「ムーミン列車」といわれる黄色い列車だ。車両にはムーミンと仲間たちが描かれ、沿線は房総のムーミン谷と名付けられた。 赤字が続いたいすみ鉄道だが、現在では経営が改善しているといわれる。それは自己資金訓練の運転士、ムーミン電車といったアイデアのほか、オリジナル商品の「い鉄揚げ」(濡れせんべいを香ばしく揚げたしっとり仕立ての煎餅)や「房総のけむり饅頭」「ホタルウォッチング列車」の運転、各駅に直営店の運営という経営努力が実りつつあるからだ。町営店では写真のような「いすみ鉄道もなか」を売っていた。小さいサイズでお茶うけにもちょうどいい。 日曜の午後、駅前はタクシーが何台も止まっているが、乗る人はいない。同じ駅の外房線の方の待合室には数人しかいない。だが、いすみ鉄道の方はけっこう乗客がいる。閉塞状況に覆われ、元気のない日本社会でも地域で懸命に力を発揮しようとする人たちがいることが限りなくうれしい。
画像
いすみ鉄道の大原に行く前にコスモス畑を見に行った。高速道・館山道の終点前にある道の駅、富浦には大きなコスモス畑があり、100円を払うと20本のコスモスを摘み取ることができる。 杉本秀太郎は「花ごよみ」の中の「秋桜」でこう書いている。 ―帰化植物といわれるもののうち、日本の風土にコスモスほどよく馴染み、われわれの感情生活にもよく溶け入った植物は、他に例がないだろう。都会の空き地、路傍、垣根のきわ、郊外電車の線路沿いにコスモスが群生し、白、淡紅色、深紅色の花が入りまじって吹く風にゆれているのが目にとまるごとに、人は去年の秋を思い出し、いつとも知れぬ年の秋を思い出す。― 10月もあと3日。コスモスは郊外から都会の空き地へと花を移してくる。 いすみ鉄道に関する以前のブログ http://hanako61.at.webry.info/201003/article_5.html http://hanako61.at.webry.info/201005/article_14.html