小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1362 野の花アザミ 連想する言葉は「ありがとう」

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 道のわきに紫色のアザミの花が咲いている。何気なく通り過ぎていたが、かなり以前から咲いていた。俳句では「薊」が春、「夏薊」が夏の季語になっており、アザミの花期が長いことがうかがえる。

 種類が多く(世界で約250種、日本では70~80種)、春から秋にかけて花が咲いているそうだから、散歩途中に目を楽しませてくれる野の花といえよう。 アザミといえば、3月で終わったNHKの連続ドラマ「マッサン」のモデル、竹鶴政孝ウイスキー修業をしたスコットランドの「国花」はこの花である。

 スコットランドが所属するイギリスは正式国名を「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」というように、それぞれの地域で「国花」があるようだ。

 イングランドはテューダー・ローズ(紅白のバラを統合した架空の花)、北アイルランドはシャムロック(マメ科のクローバー)だそうだ。 スコットランドで、なぜアザミが国花になったのだろうか。こんな言い伝えがあるという。

「1263年当時、22歳の若き王、アレグザンダー3世率いるスコットランドノルウェーと戦っていた。その戦いでノルウェー軍は夜襲を仕掛けた。足音を立てないよう裸足になって暗闇を進む中、兵士がアザミの棘を踏んで叫び声を上げてしまった。それを聞いてスコットランド軍が夜襲に気付き、ノルウェー軍を追い払うことができた」

 これが事実かどうかはわからない。ただ、1263年にスコットランド軍はノルウェーと戦い西部クライド湾でノルウェー王ホーコン4世を討ち破ったことは歴史的事実である。そうしたことがあってアザミがスコットランドの標章・国花になったとすれば、スコットランドにとってアザミは記念すべき花といえる。

 アザミの花は可憐だが、バラと同様、棘があるから要注意だ。 夭折した詩人、立原道造(1914~39)。彼の詩にもアザミに寄せた詩がある「薊のすきな子に」である。  

 憩らひ ―薊のすきな子に― 風は 或るとき流れて行つた 絵のやうな うすい緑のなかを、 ひとつのたつたひとつの人の言葉を はこんで行くと 人は誰でもうけとつた ありがたうと ほほゑみながら。 開きかけた花のあひだに 色をかへない青い空に 鐘の歌に溢れ 風は澄んでゐた、 気づかはしげな恥らひが、 そのまはりを かろい翼で にほひながら 羽ばたいてゐた…… 何もかも あやまちはなかつた みな 猟人(かりうど)も盗人もゐなかつた ひろい風と光の万物の世界であつた。

 今度、アザミの花を見かけたら「ありがとう」という言葉を思い浮かべることにしよう。

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スコットランドの標章

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歌の風景 少年時代の風あざみ ひっそりと咲く夏アザミ 春から秋までの路傍の花