小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1361 5月は好きですか ノバラの芳香に包まれて

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 5月という月を嫌いな人はいるのだろうか。よほどの事情がある人を除けばかなり高い確率でこの季節は日本人にとって人気度は高いだろうと思う。「5月という月は、草花にせよ、鳥とか昆虫にせよ、生命力が躍動して大きく羽ばたく時期です」(新潮文庫『瑞穂の国うた』とは、詩人の大岡信の言葉である。

「新緑の5月は、木の芽とともに若草ももえだしたときであって、梅も桜もすぎたとはいえ、私にいわせると、春はまさにたけなわ、ツクシにつづいたワラビの季節なのである」(筑摩書房『私の自然観』)。

 文化人類学今西錦司も、こう言っている。自然の中で生きる人間にとって、5月は「躍動の季節」なのだ。

 庭にある蜜柑の木に花がいっぱい付き、甘い香りが漂っている。遊びにきた娘がその花を瓶に詰めて持ち帰った。香りを楽しむのだそうだ。周囲が遊歩道になっている調整池の雑草地にことしも真っ白いノバラ(ノイバラ)が咲き、その芳香を散歩の人が楽しんでいる。

 ことしの立夏は5月6日であり、暦の上では夏になっている。つい先日30度を超える真夏日を記録した地域もあるが、春から夏へ引き継ぐ季節の変わり目である。ノバラは俳句では夏の季語になっている。

 愁ひつつ岡にのぼれば花いばら 蕪村

 川原への道野茨の花のみち 青柳志解樹

 茨咲く根岸の里の貸本屋 正岡子規

 貧しい少年とその親友が夢の中で銀河鉄道に乗って宇宙旅行をする宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも「苹果(りんご)とともに「「野茨」の匂いが登場する。賢治は芳香をするものの代表として野茨とりんごを考えたのだろうか。そんな芳香に包まれて、遊歩道を散歩していると、私自身も銀河鉄道に乗っているような錯覚を覚えるのだ。

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 話は変わるが、昨日の大阪都の是非を問う住民投票は、1万票差で反対票が賛成票を上回り、この構想を進めてきた橋下大阪市長は12月の任期満了で政界からの引退を表明した。このニュースを見ていて驚いたのは、開票作業が始まった直後に報道機関が出口調査の結果を流し、賛成票が反対票を上回ったと報じながら、結果は違っていたことだ。

 例えば、産経新聞共同通信毎日新聞毎日放送関西テレビが共同で実施した出口調査では賛成51.7%、反対48.3%という結果(2781人が回答)だった。NHKも賛成票が上回ったというニュースを流した。だが、結果はご存じの通りである。

 2000年のアメリカ大統領選で共和党のブッシュ氏と民主党のゴア氏が拮抗し、出口調査を基にゴア氏当選を報じた報道機関があり、出口調査が必ずしも信用できないことが浮き彫りになった。

 さすがに今回は、出口調査の結果報道のあと「賛成票が過半数」と報じたところはなかったようだが、出口調査が危ういことがはっきりした。大阪市民に、報道機関がだまされたといっていい。順風満帆の政治家生活を送った橋下氏にとって屈辱の結果を受け止めることになった5月は、嫌いな月になったのかもしれない。

一面が幻想の世界