小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1218 南米の旅―ハチドリ紀行(7) 都市の風景=歴史のたたずまいに触れる

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 それぞれの都市に歴史がある。その歴史が特徴ある街並みを形成し旅情を誘うのだ。南米4ヵ国の旅で訪れた大きな街はパラグアイの首都アスンシオン、ペルーの首都リマ、さらにインカ(現ペルー)の古都クスコだった。3つの街はいずれもがスペイン統治下の影響を色濃く残していて、滞在は短時間だったにもかかわらず歴史のたたずまいに触れることができた。

 アスンシオン(人口85万人)を訪れたのは日曜日の夕刻だった。中心部は店のシャッターが閉まり閑散としている。カトリック信者が圧倒的に多いパラグアイではほとんどの店が休みだというから、首都といえども商店街は、休日のシャッター通りになっていたのだ。

 以前、中欧スロバキアの首都・ブラスチラヴァ(人口42万人)を訪問した際も、日曜日と重なり、人通りも少なくさびしい思いをしたが、アスンシオンの街で感じたものはそれに似ていた。 公園でサッカー遊びをする子どもたちがどこから来たのかと声をかけてきたので、「ハポン」と答えた。「ハポンってどこ?」という顔をした子どもたちは、再びサッカーに夢中になり、もうこちらを見向きもしなかった。

 ほとんどが征服者、スペイン風の建物かと思ったが、大統領官邸はフランスに留学したかつての大統領(フランシスコ・ソラノ・ロペス)がパリのルーブル美術館を模して建設したという、しゃれた建物だった。しかし、この大統領官邸の近くにスラム街が存在するのがこの国の現実なのだという。

 車が走る幹線道路の街路樹も伸び放題で、バスの屋根はその枝をこすりながら走り続ける。予算が少なく、街路樹の剪定に手が回らず、バスや車は屋根がへこんでも仕方がないとあきらめて走っているのか、そんなことは気にしないのが南米人気質なのか……。後者なのかもしれない。

 アスンシオンに比べリマ(人口847万人)のにぎわいには驚いた。もちろん、ペルーもスペイン語圏であり、カトリック教徒も多いはずで、日曜はアスンシオン同様閑散となるのだろう。しかし、日曜を過ぎてリマに入ったため世界遺産の旧市街は多くの人でにぎわい、中心部のマヨール広場=旧アルマス広場(アルマスはスペイン語で武器を意味し、スペインの植民地時代に警備する兵士や彼らが持っていた武器がその由来とみられ、ペルー各地にこの名前がついた広場がある)には観光客の姿が目に付き、広場前にある大統領官邸構内では楽隊が演奏をしているのが見えた。

 かつて日系のフジモリ大統領が10年にわたってペルーのかじ取り役をしたが、軍による民間人殺害に関与した罪で禁固25年の刑が確定、服役中だ。実の娘で実業家・政治家のケイコ・フジモリさんは、ペルーの大統領選にも出馬したことがあり、ペルーの日系社会では人気が高いという。

 リマはペルー(人口2900万人)の最大の都市である。驚くのは、リマ市内に住んでいる40%の人たちの家は不法占拠した土地なのだという。さらに、60%が不法占拠の家という市もあるそうだ。土地を不法に占拠しても5年住んだという実績をつくると、その土地は不法占拠者のものになるという制度をつくったのはフジモリ大統領で、その意味でもフジモリ氏はいまでも貧困層には人気があるのだと、ガイドは説明してくれた。

 不法占拠と言えば、インカ帝国の古都、クスコ(人口30万人)でもそれは珍しくなかった。中心部を離れて街を取り囲むような丘の斜面には、不法占拠の住宅(掘立小屋のように見えた)が密集して建ち並んでいた。野良犬が歩き回り、もちろん治安も悪いという。この街は、海抜3600メートルの高地にある。走ったりしたら息切れがする、空気が薄い地域だ。 中心部のアルマス広場に近いロレト通りの石畳の路地には石組みの壁にインカ時代の見事な12角の石が残っている。

 最近、この石にいたずら書きをされたというニュースがあり、心配しているとガイドが話してくれた。その痕跡はきれいに消えていたが、イタリヤ・ピサの斜塔に落書きした日本人の話を思い出した。 インカとスペインの建築技術の違いが鮮明に残っている旧サント・ドミンゴ教会(インカ時代の太陽の神殿・現在は博物館)に入り、地震に強い建物を建てたインカの建築技術の高さに舌を巻いた。

 それはマチュピチュの遺跡からも想像できた。それにしても栄華を誇ったインカがスペインによって、いとも簡単に征服されてしまった歴史は悲しい。クスコの街並みを見ていると、そんな悲しみの歴史を感じるのである。

 

8回目はコチラから

 

写真  1、クスコの旧サント・ドミンゴ教会 2、ルーブル美術館に似たパルガイアの大統領官邸 3、アスンシオンの街で、銅像の前に建つ女の子 4、リマのマヨール広場=旧アルマス広場 5、クスコの山の斜面に建つ不法占拠の家々 6、インカ時代の12角の石

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