小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1213 南米の旅―ハチドリ紀行(2) 大いなる水イグアスの滝

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 米国史上最も偉大な大統領といわれた第32代大統領・フランクリン・ルーズベルト(ローズベルトとも表記)の夫人・エレノア・ルーズベルトは、リベラルな婦人運動家で国連代表も務めた著名人である。ブラジルとアルゼンチンにまたがる世界3大滝の一つ「イグアスの滝」を訪れた際、その迫力に驚き「かわいそうな私のナイヤガラ」(ナイヤガラは北米カナダと米国国境にある)と言ったという逸話が残っている。

 実際には「Poor Niagara!」と叫んだそうだから「かわいそう」というより「貧弱な」という方が正確なのかもしれない。旅に同行した妻も以前ナイヤガラの滝を見ており、エレノアさんと同じように「イグアスに比べたら、とてもかなわない」という感想を話した。この感想が示す通り、イグアスには驚異ともいえる圧倒的スケールの自然景観が広がっていた。

 この滝へのアプローチは様々な方面からあるようだが、私たちは成田―ロサンゼルス(米国)―サンサルバドルエルサルバドル)―リマ(ペルー)―アスンシオンパラグアイ)と飛行機を乗り継いだ後、アスンシオンからバスでブラジル側のイグアスに向かった。この車中で「ミッション」という1986年制作の英国映画のDVDを見た。  映画ファンには記憶があるかもしれないが、ジェレミー・アイアンズが主役を演じ1750年当時の現地を舞台にした実話(布教活動に身を捧げるイエズス会宣教師とグアラニー族との交流、グアラニー族殲滅にやってきた植民地軍によってもたらされた悲劇)に基づく作品である。

 冒頭、十字架にはりつけにされた宣教師がイグアスの滝に落ちていくシーンが出てくる。さらに映画全体にイグアスの滝が映し出されていて、この映画の真の主役は実は滝ではないかとさえ感じた。そして、自然が織りなす奇跡とも思える風景を早く見たいと思った。

 ブラジル側の滝は、公園入口からバスに乗って約10分。そこから遊歩道を歩いていくと、次第に轟音が大きくなり、さまざまな滝の景観が目に飛び込んできた。この地域の3月は雨季である。イグアスはグアラニー語で「大いなる水」というそうだが、まさに大いなる水が逆巻いていた。水量は豊富で、水は茶色く濁り、滝に近づくとしぶきが当たってくる。

 滝の真下につくられた細いコンクリート製の展望橋を歩いて行くと、台風に出会ったような激しい水しぶきが襲い掛かってくる。カメラもむき出しでは水浸しになってしまう。それでも一瞬だけ滝に虹がかかっているのをかろうじて撮影した。(イグアスの滝に虹は付き物のようだ。地元には、シャーマン=超能力のある呪術者=が世にも不思議なことを起こすという神のお告げを聞いたあと、月の光によってつくられた神秘的ともいえる虹がイグアスの滝にかかったという伝説もあるそうだ)

 この後、滝の真上にせり出した展望台に行く。その眺めはまた素晴らしく、カメラを持った人たちがせわしなくシャッターを押している。滝の景観については、月並みの表現が憚れるほどである。「百聞は一見にしかず」という思いを抱きながら、すさまじい勢いで流れる水を見やり、激しい水音を聞き続けた。

 滝の魅力は何だろう。調べてみると、形象としては「豪快さ、優美さ、周囲の環境(スケール)、流れる水の模様、岩盤の色、滝壺の形」などがあり、身体的にはマイナスイオン効果という説があった。ではイグアスはどうかといえば、やはり豪快さと規模の大きさといえよう。私はイグアスの滝の前に立ち、人間はいかに小さな存在であるかを思い知ったのだった。

 

 3回目はコチラから

 写真 1、ブラジル側のイグアスの滝・虹がかかっていた 2、滝の真下につくられた展望用の橋 3、雨季末期の滝は水量が多く、豪快そのもの

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