小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1327 タイ・チェンマイに雪?が降る クリスマスのプレゼント!

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 タイ・チェンマイに住む友人から、「雪景色」の写真が届いた。チェンマイの目抜き通りに雪が積もっている。暖かいタイにも雪が降るほど、地球の気候変動は激しいのかと、一瞬思った。

 それはもちろん、妄想だった。雪の正体は塩であり、チェンマイ市民はクリスマスに人工の雪景色をプレゼントされたのだ。昨今、タイから日本を訪れる観光客が増え、中でも雪の北海道は人気があるそうだ。とはいえ、タイの人々の多くは雪を見る機会がないのではないか。

 友人によると「ほとんどのタイ人は実物に接したことがなく、雪のイメージに憧れているので、こんなもの(人工雪)でも大はしゃぎで写真を撮りまくっていた」という。

 かつて『南の島に雪が降る』という小説が話題になった。俳優の加東大介が太平洋戦争に従軍した体験を元に書いた回想小説(文藝春秋、1961年9月)だ。

 映画化もされたこの作品は、戦争末期のニューギニアの首都マノクワリを舞台に、飢えとマラリアに苦しむ中で立ち上げられた軍の演芸団の物語だ。人気を集めたのは長谷川伸作の「瞼の母」で、紙を使って雪を降らせる場面では、兵隊たちから歓声があがったという。

 ところが、東北出身者が多い部隊の公演では歓声が上がらず数百名の兵隊たちは、紙の雪に故郷を思い出して涙を流す。それが加東には生涯忘れることができないシーンとなる。

 一方、チェンマイのように雪が降らない地域の人にとっては、雪は憧憬なのである。タイはことし5月の軍によるクーデターで軍事政権下にある。そんな中で市民は雪景色の中をどんな思いで歩いたのだろう。 私は友人のメールに対し雪景色の感想を書いたあと、こんなことを追記した。

「クリスマスといえば、文学作品ではデッケンズの『クリスマスキャロル』が有名ですが、ドイツの作家、ケストナーの『飛ぶ教室』もクリスマスをテーマにした名作だと思います。この作品で、ケストナーはこんなことを記しています。ナチスに抵抗した作家の名言だと思います。

『賢さを伴わない勇気は乱暴であり、勇気を伴わない賢さなど何の役にも立たない。世界の歴史には愚かな連中が勇気を持ち、賢い人たちが臆病だったような時代がいくらもある。だが、これは正しいことではなかった。勇気のある人たちが賢く、賢い人たちが勇気を持った時に初めて人類の進歩が見られるのだ』」  

「うしろより初雪降れり夜の町」(前田普羅=1884~1954)

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