小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1174 コムローイ(天灯)に想う タイへの旅(2)

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タイ旅行で、日本では見かけたことがないものに出会った。一夜、友人に案内されてチェンマイの中心部を流れるピン川沿いに建つタイ料理の名店「ターナム」というレストランに行った。ここでは、つい先日終わったばかりのロイクラトン祭りと同じような趣向を希望する客に味わってもらうという有料のサービスをしていた。 そのうちの一つが小さな熱気球を天に放つコムローイだった。コムローイは天灯ともいい、タイや中国など、アジアの各地で見られる伝統行事だそうだ。熱気球と同じ原理で、竹篭のように竹で編んだ楕円形の小さな籠に紙を貼り、中に油を浸した紙を固定、それに火をつけると籠の中の空気が加熱されて軽くなり、上昇する原理だ。こうして夜空に高く浮かび上がったコムローイは、「天の仏陀に感謝の気持ちを捧げ、日々の生活が幸福であるように厄払いをする」(タイ政府観光局)意味があるという。 店の人に申し込んで、コムローイ3個を揚げた。中の紙に火がつくと、タイミングを計って手を離す。下へ落ちる心配はなく、それぞれの願いが込められたコムローイは見る間に暗い夜空へと揚がっていき、橙色の明かりが次第に遠くなっていく。そのかすかな灯りは、空に新しい星が生まれたような錯覚を覚える。本番では何万というコムローイが揚がるそうだから、幻想という表現を超えた壮観さがあるに違いない。 このレストランではコムローイとともに、ロウソク、線香、花で飾ったクラトン(灯篭)を川に流す「ロイクラトン」もやっていた。タイでは、陰暦12月(10月―11月ごろ)の満月の夜にたくさんの「ロイクラトン」を流す祭りがあり、チェンマイでは「イーペン」と呼び、ピン川が会場になる。ことしは11月16日から18日まで3日間、この祭りが開かれた。コムローイは市内の北に位置するメージョー大学を会場に、初日の16日に打ち揚げられたという。私たちがチェンマイに入ったのはその1週間後のことで、レストランではその余韻で、2つのサービスをしていたのかもしれない。 タイでは、チェンマイ出身の初の女性首相、インラック・シナワトワ首相の政権運営に対し、激しい反政府デモが続いている。インラック首相の実の兄で亡命生活を送っているタクシン・チナワット元首相の恩赦法案の上程(11月1日に下院で可決、11日に上院で否決)が発端といわれ、バンコク滞在中、数多くの警察官が主要官庁を警戒する姿を見かけ、タイ政治が緊迫していることを感じた。 一方、日本では多くの反対意見を無視して、政府は特定秘密保護法案を強行採決という形で成立させようとしている。自民党の石破幹事長はデモについて「議員会館の外では『特定機密保護法絶対阻止!』を叫ぶ大音量が鳴り響いている。(中略)単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」と自身のブログで書き、あとでおわびと訂正を出した。 しかし最初に書いたものが石破氏の本音に違いない。デモはテロと言い切るこの人は、いつの時代の政治家なのだろうと思ってしまう。選挙に勝てば何をやってもいいという考え方は、目的のためには手段は選ばないというマキャヴェリズムに通じるものだ。それは、いつか手ひどい反撃を受けるものであることも自明の理といえよう。タイのコムローイとロイクラトンを思い出しながら、日本がつまらない社会になっていることに心が寒くなった。
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写真 1、ささやかな数のコムローイ(本番は数限りなしという) 2、ピン川に浮かぶロイクラトン 3、4近くで見たコムローイ