小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1010 運転手の絶妙の解説 これぞプロ 仙台を走る「るーぷる」

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 東日本大震災で被災した仙台市だが、1年半が過ぎて街は以前と変わらにほどにぎわっている。JR仙台駅も、市内も多くの人が屈託ない表情で歩いている。以前、仙台に住んでいた。仙台は、札幌とともに私にとっては第2の故郷だからこの街の変化に関心があるし、大震災当時は痛ましい思いを抱き続けた。その仙台。いま、市内には市交通局運営の要所を走る「るーぷる仙台」というバスが走っていた。

 このバスが面白い。運転手が街の要所を解説し、それを聞いている乗客から笑い声が絶えないのだ。 このバスは、1999年から運行され、外観も車内(木で内装されている)もレトロ調の路面電車と思える車両で、主に観光客を対象に運行しているようだが、一般客も利用している。

 仙台駅から青葉通り、晩翠草堂(荒城の月を作詞した詩人・土井晩翠の別荘)、瑞宝殿(伊達政宗を祀る霊廟)、仙台城青葉城)、東北大理学部、仙台二高、大崎八幡などを回り、仙台駅に戻る市内周遊のバスだ。 過日、私は仙台駅前からこのバスに乗った。録音された案内の合間に運転手が話し始めたのを聞いて、オヤッと思った。

「これから皆さんは松島観光に行かれるかもしれませんが、ガイドを使う必要はありません。ガイドを頼むと1800円取られますが、団体の後にそっとついていけば、ガイドの話をただで聞くことができますよ。この話を私から聞いたことは内緒にしてください」

「ここは銀杏並木です。交通量も激しいですね。でも仙台市民は命をかけて路上に落ちた銀杏を拾っていますよ」

「ここは東北大です。任天堂脳トレで知られる川島隆太教授が教えています。川島さんは、この印税の10億円を東北大に寄付してしまったそうです。それを知った息子のなぜ僕らにくれないのという質問に対し川島さんは、お金がほしかったら自分で稼げと説教したそうですよ」

「仙台が本拠のプロ野球楽天の田中投手は昨年まで素晴らしい成績でした。ことしは結婚して合宿を離れ、市内のマンションに奥さんと住んでいますが、成績が悪いですね。結婚するということはなかなか大変なのでしょうね」

「ここ瑞宝殿は、伊達政宗を祀っています。皆さん、伊達男の語源を知っていますか。実は語源は伊達政宗だそうです。かつて戦に出るとき、政宗公とその家臣はそろいの鎧や甲冑で戦に臨み、それが格好いいため『男伊達』あるいは『伊達男』といわれ、現代まで残っていると言われているんです」
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 こんな話の途中に「このバスは、震災前は20分間隔で走っていましたが、震災後は風評被害で仙台への観光客が減ったため、30分間隔にしています。これに乗った方は、どうか仙台のよさ、このバスが楽しいことを知り合いに伝えてください」と、PRしていた。 歯切れがよく、眠くならない解説は絶妙であり、これぞ仕事に徹する「プロ」だと思った。仕事や観光で仙台に行く機会があれば、このバスで全コースをゆっくり乗ってみることをお勧めする。面白い解説を聞きながら緑が多く、美しい仙台の街並みを巡れば、ストレスはなくなること請け合いだ。