小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

845 ある知人からの便り 震災の惨状は旧満州そのもの!

 昨年1月、このブログで「生獄」という本を紹介した。著者は旧満州中国東北部)で7歳のとき終戦を迎え、苦難の体験をした柏実さんだ。その柏さんからこのブログに関する便りをいただいた。ブログ「小径を行く」は、匿名で書いているので、彼はこの存在を最近まで知らなかったのだという。嬉しい便りだった。一部を省いて紹介する。

 《暑中お見舞い申し上げます。東日本大震災からはや4カ月。連日報道される被災者の胸中を思う時、心が癒される暇がありません。怒涛のごとく押し寄せる津波は牙をむき沿岸にある尊い生命と財産をいとも簡単にのみ込んだ。一瞬の惨劇に日本中が悲しみの靱(うつぼ)にたたき込まれた。天災とはいえども、数千名の生命を奪った。あの巨大な津波を見て、66年前の満州を思い起こしました。

 「巨大なる津波」はソビエト軍であり、無限の匪賊にも見えました。追い打ちをかけるように、福島の原発事故。二重三重の惨状は満州そのものです。

  7日ほど前に、義理の息子より電話があり、お父さんの知人が「生獄」の感想文を「小径を行く」というブログに書き込んでいる。文章がとてもいいので家に来いという。夜、10時過ぎ、自転車を飛ばした。涙が出るほど嬉しくて2回、3回と繰り返し読みました。

  息子はだれが書き込みをしてくれたのかと、必死になって名前を捜しましたが、名前がないのです。お父さんの知人ならだれなのか分かりますかと問われたが、頭の中が白くなったのです。私には多数の満州引き揚げ団体と40年に及ぶ交流がある。しかし、これほどのことを書いてくれる人はただ一人、あなただと直感したのです。

  初版から2刷まで6カ月。出版元もセールスに驚いています。満州からの引き揚げ者のみならず、最近は中国の留学生の若者が読んで感動し、3冊、5冊と買い求め、中国の母校に送る者もいるそうです。

  馬鹿正直な私ゆえ、是は是、非は非として綴ったことはよかったと思います。が、編集者の不注意や私の書き不足の点が多く自戒しております。修正できないことが残念でなりません。どこかの出版社で文庫本にでもなる時は訂正するつもりです。》

  このところ福島、大阪、静岡、函館、札幌と連続して旅をした。手紙を旅行かばんに入れ、時折読み返し30年に及ぶ柏さんとの交流を鮮明に思い出した。柏さんが言うように、66年前の旧満州では戦争という人災によって多くの日本人が命を落とした。東日本大震災の惨状を見て自分の厳しい体験を思い出した人は、少なくないだろう。