小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

672 金融界の寵児もただの人 カリスマの果てに

  経済界には「カリスマ性」を持った人物が時々登場する。最近ではライブドアを創設したホリエモンこと堀江貴文氏、村上ファンド村上世彰氏、そして日本振興銀行前会長の木村剛氏がいる。

  この3人に比べると、やや年齢は高いが商工ローンSFCGの創業者大島健伸氏もカリスマ性を持っていたという点では共通していた。この4人ともなぜか、司直の手にかかってしまったのも不思議である。

  報道よると、元日銀マンの木村氏の場合は竹中平蔵元金融相のブレーンとして知られ、金融コンサルタントとして、経営責任を取らない銀行経営者や銀行となれ合う金融庁を厳しく批判したことで一躍有名になった。

  日本振興銀行を設立した際には、「日本一厳しいガバナンス(企業ぐるみの違法行為を監視したり、少数に権限が集中する弊害をなくしたりして、企業を健全に運営すること)体制を整備したい」「金融庁には常駐検査官を一人派遣していただきたい」(朝日新聞より)と語っていたという。志の高い人と思えた。しかし・・・。

  日本振興銀行に対し警視庁が銀行法違反(検査忌避)容疑で強制捜査、木村氏らを逮捕したことはご存じの通りだ。金融庁の検査の前に木村氏の指示で、業務上の大量の重要メールを削除してしまったというのが容疑事実である。木村氏を巡ってはいろいろなことが報道されている。

  中でも、金融庁の検査中に自分が保有していた大量の振興銀行株を手放し、数億円を得ていたという話には驚いた。非上場のため、インサイダー取引を禁止する金融商品取引法には抵触しないというものの、ガバナンスとは全くかけ離れた行動だと思う。私は経済や金融のことは門外漢であり、よく分からない。しかし、日本振興銀行とSFCGの債権のやりとりの不透明さからこれは何かあるぞと思っていたら、案の定、捜査の手が木村氏まで及んだのである。

  規制緩和という名の小泉改革は、日本社会に「格差」を持ち込んだ。その懐刀は竹中平蔵氏(現在は慶応大教授)であり、竹中氏のブレーンの一人は木村氏だった。錦の御旗のように「構造改革」というキャッチフレーズは、各方面で使われた。だが、お祭りが終わってみると、残ったものは「荒廃」と「失望」の社会だった。後に続く、安倍、福田、麻生という自民党内閣はそれを克服するだけの力はなく、短命に終わる。

  昨年、民主党は閉塞状況にある日本に風穴をあけたはずだった。自民党から政権を奪い取り「政権交代」を果たした。だが、鳩山政権になっても何も変わらなかった。菅政権も参院選でつまずき、行く末は怪しい。

  いま、政界には、最初に挙げたようなカリスマ性を持った政治家は見当たらない。構造改革路線を走った小泉元首相は、それがあったのかもしれないが、いまになっては、評価はあまり高くない。息子の進次郎衆院議員を持ち上げるテレビのワイドショーが目立つが、未知数だ。

  カリスマ性があった故に、一時は超有名人となった4人。だが、彼らの生き方はとても模範的とはいえない。まして今回の木村氏の容疑が事実とすれば、まさに言行不一致であり、容認することはできない。

  百科事典(マイペデア)にこんな記述がある。「カリスマ的指導者の犯した失敗はカリスマ信仰に対する裏切りであり、しばしば追随集団の急速な解体をもたらす」。4人がかかわった組織だけでなく、近現代にカリスマ指導者によって、破局への道を歩んだ国家もあったことが頭に浮かんだ。