小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

592 マンデラとラグビーの魅力 映画「インビクタス」

画像 ラグビーといえば、ニュージーランドオールブラックスを思い浮かべる。その強豪を破って、南アフリカが1995年、第3回ワールドカップの開催国として初優勝したことは、ラグビーファン以外にはあまり知られていない。

インビクタスー負けざるものたち」(監督・クリント・イーストウッド)は、この大会で優勝した南アチームの戦いぶりと、アパルトヘイト(人種隔離政策)と闘ったネルソン・マンデラ大統領の実話を再現した映画だ。

 アパルトヘイトが撤廃されたとはいえ、南アには人種差別が色濃く残っていたはずだ。前年の94年に大統領になったマンデラは、スポーツによって国民の気持ちを一つにしようと考える。その思いが、W杯ラグビーで開催国優勝という結果につながる。

 マンデラを演じるのは、この人以外いないだろうと思わせるモーガン・フリーマンだ。どちらかといえば物静かで、押し付けがましいところはない。抵抗の政治家ともいえるマンデラを淡々と演じたのはさすがだし、南アチームの主将フランソワ・ピナール役のマット・デーモンも知的な風貌が役柄に合っていた。

 マンデラノーベル平和賞を受賞した有名人だが、この大会で活躍したピナールや怪物といわれたニュージーランドジョナ・ロムー、有色人種として唯一南アの代表になったチェスター・ウイリアムスらはサッカーの有名選手に比べたら、知名度は劣る。ラグビーに知識がないために彼らを調べていたら、決勝戦直前に、ニュージーランドチームで「食中毒事件」があったことを知った。

 決勝戦ニュージーランドの選手は動きに生彩がなく、トライで得点することはなかった。この原因として、宿泊していたホテルで選手の半数が食中毒にかかったことを挙げ、ニュージーランドでは、「スージー」という名前のウェートレスが食事に何かを入れたのだと噂が広まったという。 しかも、選手たちの部屋から盗聴器が発見されたため、南ア側の陰謀説も流れた。当然ながら、南アはそれを一笑に付している。(映画では一切触れていない)

 そのニュージーランドと予選で戦った日本は、何と145対17で大敗している。映画でもこの大量失点について「最多失点の記録だ」と紹介し、観客席から失笑が起こった。この試合に怪物、ジョナ・ロムーは出場していなかった。もし出ていれば、さらにひどい記録になっていただろうといわれているそうだ。

 以前、ニュージーランドを旅した際、マオリの伝統的踊りである「ハカ」を見た。オールブラックスが試合開始前にこの踊りをやるので有名だ。W杯の決勝でも南ア選手や大観衆の前でハカダンスが演じられる。そんなニュージーランドをわき役に追いやったのだから、南アのマンデラ効果はすごかった。

 マンデラが政界から引退して10年以上の歳月が流れた。南アの治安は相変わらずひどい状況にあるという。それでもことし6月から7月にかけてサッ彼は長い間牢獄に入っていた。その分も含めて長生きしてほしいと思う。 サッカーとラグビーを比較すると、サッカーの方が好きだという人が多いかもしれない。

 しかし、猛烈なタックルやスクラムを組んだ押し合いなどラグビーの見せ場も少なくない。ラグビーラクビーとして魅力があるスポーツであることを映画を見て再認識した。