小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

577 日本一の巨木を見る 樹高30メートルのクスノキ

画像 「日本一」とか「世界一」という見出しが目に入ると、ついその記事を読んでしまう。つい最近もアラブ首長国連邦UAE)のドバイ首長国に828メートルの世界一の高層ビルが完成したというニュースがあった。 ドバイショックが伝えられる中で、あだ花ともいえるビルという受け止め方もあるが、最近、鹿児島県で「日本一の巨木」を見る機会があり、そのスケールに畏敬の念を抱いた。

 ドバイのビルは人工的建造物だが、巨木は自然からの贈り物であり、長い歴史を思った。 台湾・台北市には「タイペイ101」(高さ509・2メートル、101階建て)という超高層ビルがあり、これまで世界一を誇ってきた。しかし、ドバイのビルの完成で2番目に陥落してしまったため、関係者ががっくりしているという報道もあった。 その点、巨木の方は静かなものだ。この巨木とは、鹿児島空港に近い蒲生町の蒲生八幡神社にある「クスノキ」だ。

 国指定特別天然記念物「蒲生のクス」という説明文には推定樹齢1500年、樹高30メートル、根回り33・57メートル、目通り幹回り24・22メートルとあり、さらに「昭和63年度に環境庁の巨樹・巨木林調査によって、日本一の巨樹であることが証明された」と記されて、その歴史についても触れている。

 内部には直径4・5メートル(約8畳分)の空洞があるというが、入り口は金網で覆われ、中に入ることはできなかった。説明文には「枝張りは四方に広がり、その壮観な様は、まるで怪鳥が空から降り立ったようである」と、いう描写されている。なるほど、怪鳥か。クスノキの大木は、ほかでも見たことがあるが、これにはかなわない。

 その後、環境庁(現在は環境省)がこうした調査をしたかどうかは分からない。当時の調査によると、巨木ベストテンのうちクスノキが9本で唯一鹿児島県大口市のサクラが3位になっている。 調査以外に、自称「日本一」の巨木は、全国にけっこう存在するようだ。青森県西郷村には「ダケカンバの日本一」があり、樹高8・5メートル、根回り400センチ、推定樹齢300年だそうだ。

 京都府舞鶴市の「日本一のシイ」は樹高15メートル、幹回り13・8メートル、樹齢300年以上というし、宮城県柴田町の白石川堤の一目千本桜には、幹回り4・85メートル、樹高13・7メートルの木があり、ソメイヨシノとしては日本一だと地元は胸を張っているそうだ。 それにしても、蒲生のクスの巨大さは群を抜いている。だが、こうした植物もいつしか寿命を迎える。

 このクスも樹勢が衰えを見せ、10数年前に延命を図るために枯れ枝の切除や消毒、空洞の防水、幹周辺の土壌改良など4年をかけて保護作業を施し、勢いを取り戻したという。画像 しっかりと大地に根を張り、悠久の時間を送ってきたクス。こうした長い歴史を生き抜いた植物に比べると、人間はちっぽけな存在で、あくせくしすぎている。快鳥が手を広げたような巨大なクスの姿を見ながら、そんなことを考えた。