小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

456 映画「ガマの油」と公園の蛍狩り

 名優、役所広司がメガホンを取った映画「ガマの油」を見た。同じ日の夜、近所の公園に蛍狩りに行った。どちらも「郷愁」ということばにつながるものだ。私自身、実際にガマの油売りを見たことはないが、その口上の面白さは子ども時代から知っている。一方蛍狩りといえば、子どものころの夏の夜の楽しみだった。

  映画「ガマの油」は、まさに「ファンタジー」だ。幻想、空想を織り交ぜた作品だ。最愛の息子の事故死という暗いストーリーである。が、コミカルなタッチに笑い、ほのぼのとした思いで映画を楽しんだ。もちろん、役所の演技は別格だ。

  それに加えて小林聡美瑛太澤屋敷純一二階堂ふみ八千草薫益岡徹らといった脇役陣は、ベテランと新人の組み合わせがいい。澤屋敷は格闘技のホープらしい。二階堂は宮崎あおいを彷彿とさせた。

  名優、必ずしも名監督とはいえない。それは野球で実証されている。現役時代、大選手といわれながら一線を退いたあと、指揮官として成功した野球人が何人いるだろうか。役所は監督としても適格なのかもしれない。しかし、それは2作目のできにかかってくるといえる。

  さて、蛍狩りだ。早めに夕食を終え、家族と犬とで蛍の公園に向かう。日暮れがやってきて、公園では懐中電灯を持った人たち歩いている。小川があり、上流には蛍の人工飼育所がある。暗い道を歩いていくと、ほのかな光の点が揺れている。

  この季節になると、人工飼育所から放たれた蛍が闇の中でひらりひらりと舞うのを見ることができる。「ほー ほー 蛍来い あっちの水は苦いぞ こっちの水は甘いぞ」という童唄があるが、都市部の蛍の公園で、この唄は聞かれない。

  まだ6月の初めだ。子どものころに見た蛍はたしか夏休みのころだったと思う。暑い夏の夜には兄や姉、近所の遊び友達と涼みながら田んぼの上で舞う蛍を見に行った。しかし、いつしか蛍は姿を消した。農薬の影響だった。

  大人になり、ふるさとに帰ると蛍がちらほら見えるようになった。宮本輝は「蛍川」で芥川賞を受賞した。ふるさとの蛍が復活したとはいえ、この作品に描かれるような、蛍の大群を見たことはない。