小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

406 雪に祈る 寡黙な友人の話

  昨夜、親しい友人と酒を飲んだ。いつもは私が一方的にしゃべるのだが、昨夜は彼の話がいいので、つい聞き役に回った。以下はふだん寡黙な友人の話だ。

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 2月の終わり、道路のわきには前日夜の雪が残っていた。ハンドルを握る手が汗ばむくらい緊張しながら、車を運転する。周辺の山々はうっすらと雪化粧をしている。急速に空の雲は消え、青い空間が広まっていく。その青さは、これから祝う会で再会するある人の人生を祝福するようで快い。私も雪の山に向かって、この人を守ってほしいと念じた。

  ある人とは、私の兄の長女だ。一度は就職して東京の生活を送ったが、事情があって首都圏から車で3時間ほどの地元の町に戻って再就職をした。その職場で高校時代の同級生と再会し、恋に落ちる。しかし相手には2人の子どもがいた。相手は離婚して、2人の子どもを引き取っていたのだ。

  親からすれば、2人の子どもがいる相手との結婚にはなかなか賛成できない。苦労することが目に見えるからだ。娘の相談に両親は反対した。しかし、心が通いあった2人は、反対にあっても別離の道を選ぶことはしなかった。

  その結果、姪は両親に断らずに家を出る。それはつらい選択だっただろう。姪は自活の道を選んだのだ。数年の歳月が流れた。2人の気持ちに変化はない。姪から「両親と会いたい」という相談を受けた姉夫婦が、その意向を兄夫婦に伝えた。

  それを待っていたかのように、ふだん頑固な兄が顔をほころばせたという。話はとんとん拍子に進んで、2人はことし元旦に入籍をした。その結果、兄夫婦には小学生の2人の孫ができた。

  姪は頑張ったし、兄の方もよく許したと思う。町に着く。空気が乾き、太陽の光がまばゆいばかりだ。それは姪のこれからの人生を祝福しているように私には思えた。祝福会の終わりで、姪は用意してきた手紙を読み上げた。聞いていて涙がこぼれた。両親を思いながら家を出ざるを得なかった心情が痛いほど分かった。

  翌朝、義姉は実はと言いながら、私に娘あてに書いて渡したという手紙をそっと見せてくれた。それには娘の幸せを願う母親の思いがあふれていた。

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 世間にはこのような話はありふれているのかもしれない。だが、この話を私にする友人の顔はとてもうれしそうで、ふだんよりもかなり酒を飲んだ。駅に向かう足取りも少しあやしいが、その背中には暖かさがにじんでいた。それにしても、いったん離れた心を元に戻すのには時間がかかる。肉親ほど、関係修復は大変なのだ。