小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

392 躍動する子どもたち 沖縄の組踊・肝高の阿麻和利

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 沖縄県うるま市にある「きむたかホール」で、沖縄の伝統芸能「組踊」を現代風にアレンジした「肝高(きむたか)の阿麻和利(あまわり)」の舞台稽古を見る機会があった。 1月20日のブログに書いた平田大一さんが演出しており、平田さんの案内でこの芝居に出演する中高生のそれぞれのパートの稽古を見た後、実際に観客席に座り芝居の一部を演じてもらった。

 それは躍動感にあふれ、心に響く舞台だった。 うるま市には、世界遺産に指定されている「勝連城(かつれんぐすく)」がある。阿麻和利はこの城の15世紀の城主だ。琉球王朝打倒を図るが暗殺され、琉球史では逆賊扱いになっている。

 この舞台では「肝高」(気高い)の志を持った民衆を大事にする領主と描かれており、平田さんによると、この芝居に出演する子どもたちには阿麻和利は英雄なのだそうだ。 この芝居はダンスと芝居が入り混じったいわばミュージカルなのだが、沖縄の伝統芸能である組踊が基本になっている。

 演じる120人は、みんなうるま市に住む中高生だ。希望者はこの組踊の会である「あまわり浪漫の会」に入会できる。しかも、役柄も希望していいが、最終候補者を決めるのは子どもたちなのだという。 これまでに130回以上の公演をし、ハワイでも海外公演をこなした。

 中高生のため高校を卒業すると、この芝居からも卒業することになる。ことし3月で阿麻和利役を終える与勝高校3年生の登川航さんは、高校卒業後舞台俳優を目指して東京に出る予定だ。平田さんは「これまでの阿麻和利役では一番地味だが、子どもたちから一番人気があったのが彼なのです」と話した。

 その平田さんは、童顔でとても40歳には見えない。しかしリハーサルとはいえ、子どもたちの舞台を見る目は厳しかった。歌い、踊る子どもたちの表情は底抜けに明るい。阿麻和利が死ぬシーンでは、みんなの嘆き悲しみが体全体から伝わる。リハーサルが終わると、平田さんの顔も柔和になった。

 いま東京を中心にした一極集中化現象が激しく、地方の多くは元気がない。しかし、うるまの阿麻和利の舞台で踊る若者の姿を見て、地方は健在だと確信した。同行した中国の大学生たちは、この舞台稽古に興奮した様子で、中国で公演をしてほしいという希望を平田さんに語っていた。ことし8月には、新宿の厚生年金ホールでこの組踊の公演があるそうだ。