小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

358 80日間世界一周 新幹線で読むヴェルヌ

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 神戸に行ってきた。六甲や郊外は紅葉の季節を迎え、六甲に向かう中高年ハイカーの姿をあちこちで見かけた。行き帰りとも新幹線ののぞみに乗った。往復約6時間余を読書の時間に当てた。 今回の旅の友は古い小説、フランスのジュール・ヴェルヌの「80日間世界一周」(江口清訳)だった。

 新幹線に乗ったら、必ず読み返そうと思っていた作品だ。 1872年に新聞に連載され、翌年出版されたというからもう136年前の本である。日本では1878年明治11年)に翻訳されているが、当時としては、80日間で世界を一周するという行為は夢物語みたいなものだった。これに挑戦したイギリス紳士のフォッグ氏の冒険旅行は、時代は変わっても色褪せせず読者を惹き付けるものがある。

 フォッグ氏の80日間世界一周という旅は、友人との賭けが原因だ。絶対無理だという友人に対し、フォッグ氏は可能であると主張、それを証明するために旅に出るのだ。その旅には3人の連れがいる。従僕のフランス人青年パスパルトゥー、フォッグ氏を窃盗犯として追い続ける刑事のフィックス、インドで命を救われて同道するアウダ夫人だ。

 径路はロンドンを出発してスイズ運河を通り、インド、シンガポール、上海、横浜、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークを経てロンドンである。 旅の足として使うのは列車や船やそり、象であり、飛行機だけがこの時代にはない。インドでは地元の部族によって処刑される寸前のアウダ夫人を助け、船に乗ればおおシケに遭遇したりする。時間との競争の旅は、苦難の連続だ。

 しかしフォッグ氏はいずれの場面においても動揺することなく沈着冷静な行動を取り続け、イギリスに約束どおり80日以内に帰り、友人との賭けに勝つ。 この旅で、フォッグ氏を支えているのはヒューマニズム精神であり豊富な金でもある。彼は必要と思ったときには、惜しげもなく金を使い、危機を乗り切る。政治家もこうありたいものだと思ったものだ こんなフォッグ氏の旅に気を取られ、本に没頭していると神戸に着いていた。「80日間世界一周」の舞台の一つである横浜より、神戸は以前から港町としてのにぎわいを見せていた。

 小説には横浜が登場し、当時の街の様子が生き生きと触れられている。神戸だったらヴェルヌはどのように紹介したのだろうかと想像するのは愉快な時間であり、風邪で体調が悪いのを忘れていた。

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