小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

304 「百万円と苦虫女」放浪し成長する女性

  題名からして変わっている。「百万円と苦虫女」とは。この題名と監督のタナダユキ、主演が蒼井優という取り合わせがチケットを買った理由だった。控えめで、影のある蒼井の演技につい引き込まれた。平凡な女性が刑事事件を起こし(冤罪なのかもしれないが)、罰金刑を受ける。若くして人生に行き詰まり、百万円を稼ごうと家を出た女性が海と山と町の3つの場所で生活し、自分を取り戻し、成長する映画だ。

  蒼井は「フラガール」で好演した。少女のような顔立ちは宮崎葵と共通するものがある。フラガールでは、ひた向きにフラダンスに取り組む少女役を演じた。

  真っ直ぐに目的に向かう姿が印象に残った。今度は、影をひきずりながら放浪の旅をする女性役で「苦虫女」の題名があるとおり、笑顔はほとんどない。

  タナダ監督の演出もいい。ふらりと全く知らない町へとたどり着き、そこで働き、百万円をためようとする。百万円がたまったらもう次の町へと旅立つ。それは不思議な旅といえよう。

  苦虫をかみつぶしたような蒼井の演技に、周囲の観客からときどき笑い声が起こる。同時並行で続く弟との手紙のやりとりもいい。弟は日常的ないじめに遭っているが、その相手に対し自分から闘いを挑んで行く。

  タナダ監督と蒼井のコンビに対し、称賛の声が強いと聞く。海外での公開も決まったという。自分の生き方に自信がないという若い世代は少なくないはずだ。蒼井はそうした女性の姿を演じきっている。一見の価値がある映画だと思う。

  蒼井が演じたような苦虫女や苦虫男は、いまの日本にはあふれている。それだけに現代は閉塞感が強い社会になっているからだろうか。そうした人たちに、気持ちのいい笑顔が戻ることを願わずにはいられない。