小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

28 ワールド・トレード・センター

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 映画「ワールド・トレード・センター」は、5年前の2001年9月11日にアメリカで発生したあの9・11テロで、救助に駆けつけた警察官が瓦礫の下敷きになり、2人が奇跡的に助かった実話を基につくったそうだ。

 監督は『アレキサンダー』のオリバー・ストーン。『ナショナル・トレジャー』のニコラス・ケイジと『クラッシュ』のマイケル・ペーニャが、ワールド・トレード・センターに閉じ込められた警官を演じる。ストーン監督がリアリティにこだわって撮り上げた迫力の映像と人間ドラマが見どころ-という。

  あの日、日本時間では夜10時前だった。こうした歴史的な事件でも、現代はテレビやインターネットでほぼ同時に発生を知ることができる時代だ。だからあの夜のことは鮮明に覚えている。

  単身赴任の札幌で、一人夕食を終え、ビールを飲みながらNHKニュースを見ていた。テロップが入り、急にアナウンサーの顔に緊張が走った。それから、NHK、民放とも予定していた番組を中止し、米国で起きた信じらない出来事を放送し続けた。

  SF映画ではないかと、疑ってもおかしくはない飛行機の超高層ビルへの衝突の映像。ビールの酔いがさめ、頭が痛くなるほどの衝撃を受けた。

  太平洋戦争中、日本は「特攻隊」を設け、若者の命を犠牲にして米軍の戦艦への体当たり攻撃を敢行した。

  9・11テロも、イスラムを信じるテロリストが航空機をハイジャックし、多くの乗員・乗客とともにワールド・トレード・センターに衝突させて自爆したのである。そして、テロリストを除き2973人が命を失った。

  犠牲者はビルにあるオフィスで働く人々だけではなかった。救助のためビルに入った消防士・救急隊員、警察官、港湾局職員らが炎に焼かれ、崩れ落ちた瓦礫の下敷きになるなどして命を失った。その数は403人に上る。

  映画は、港湾警察官の2人が、ビルの崩壊で瓦礫の下敷きになるが、お互いに励ましあい、救助の手を待ち、ついに生還するまでを追ったものだ。家族の愛に焦点を絞り、静かに見るものの心に何かを訴える。

  あのような、危機的状況の中で生き延びるには、その人の生命力の強さだけでなく、他の要因もあるに違いない。

  映画では、信心深い海兵隊員がテロを知って救助に駆けつけ、現場で会ったもう一人の海兵隊員とともに現場を捜索し、瓦礫の下の2人を発見するのである。

  9・11テロでは、あれだけの犠牲者が出たのだから、犠牲者をめぐるエピソードは数限りなくあるはずだ。この映画はその一つのエピソードに過ぎない。

  21世紀は、この9・11でテロの世紀として歩みを始めてしまった。この泥沼から抜け出すことはもう不可能なのだろうか。

  武力では解決はしないが、話し合いでも難しい。でも、平和を求める世界の世論がいつかはテロを撲滅すると信じたい。