小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1340 帰還兵の悲劇の連鎖 映画『アメリカンスナイパー』

新聞の外信面に「『米軍伝説の狙撃手』を射殺 元海兵隊員に終身刑判決」(東京)という記事が出ていた。イラク戦争を題材にし、現在日本でも上映中の映画『アメリカンスナイパー』のモデルとなった、元海軍特殊部隊の射撃の名手ら2人を銃で射殺した元海兵隊員に対する判決だ。

つい先日、話題の映画を見たばかりだった。映画の幕切れには字幕でアメリカンスナイパーの悲劇(この事件)が紹介されている。

イラク戦争は、当時のイラク大量破壊兵器を保持しているとして米国を中心にしてフセイン政権を倒すために起こした。結果的にフセインは身柄を拘束され、裁判で大量虐殺の罪などで死刑判決を受け、執行された。しかし、大量破壊兵器は発見されず「大義なき戦いだった」という強い批判が出ている。

この戦争に参加し、帰国した元兵士たちの間では心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむケースが目立ち、映画にもなったクリス・カイル氏=当時(38)は、その支援活動に取り組んでいた。カイル氏は、イラク戦争に4回にわたって参戦し、敵側の160人を狙撃によって殺害、米軍内では伝説の狙撃手といわれる存在になり、一方イラク側からは「悪魔」と呼ばれ、懸賞金を付けて命を狙われたという。

戦争にPTSDは付き物といわれ、ベトナム戦争後米国では心に傷を負った帰還兵が社会問題になった。さらにイラク戦争でもそれは繰り返された。実際にカイル氏らを射殺した被告もイラク戦争によってPTSDとなった帰還兵である。それは戦争の過酷さの裏返しともいえる。

過激派組織「イスラム国」の誕生は「アメリカによるイラク戦争によるイラクの秩序破壊が要因」という指摘もあるように、イラク戦争の後遺症は拡大を続けている。

前述の東京新聞の記事は、映画について「戦争映画としては『プライベート・ライアン』(1998年公開)を超える過去最高の興行収入を米国で記録。過激派組織『イスラム国』(IS=Islamic State)の掃討に向け、米地上軍の派遣を求める声もある中、映画は心に傷を負った帰還兵の問題に焦点を当て、関心を集めている」と紹介している。

世界が平和とは程遠い現状のなかで、この映画は戦争の非情な現実や兵士たちの苦悩、それを支える家族の思いなど、戦争の実相を考える材料を提供してくれる。