小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1150 ラジオ体操の効用 被災地ではおらほの…

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飼い犬がこの世を去ってから、朝の散歩の代わりに始めたのがラジオ体操だ。近所の公園前の遊歩道の広場で町内会の有志が中心になって始まったのが、いまでは50人近い集まりになっている。8月初めから参加してちょうど1カ月が過ぎ、ようやく体も慣れてきた感じがする。義務教育時代はいやいややっていたはずだが、一応体は覚えていて、何とか間違わずに終えることができるようになった。 ラジオ体操は、当時世界最大の保険会社といわれた米国のメトロポリタン生命保険会社が1925年3月9日からニューヨーク、ワシントン、ボストンの3つのラジオ局を通じて、早朝20分の体操を流したのが始まり(高橋秀実著「素晴らしきラジオ体操」小学館)だ。放送当日のニューヨークタイムズには、同保険会社副社長の「ダイエットと健康の秘密をお伝えします。毎朝、正しい姿勢とよいユーモアは苦痛かもしれません。しかし、この単純なことが死亡率に影響を及ぼすのです。毎日の楽しい体操で、多くの人の寿命が15年から20年延びることでしょう」という談話が掲載されたそうだ。 当時、米国に滞在していた逓信省簡易保険局(現在は日本郵政グループかんぽ生命)の関係者がラジオでこの体操を知って日本での普及を進言、3年後の1928年には日本放送協会(NHK)と文部省(文科省)の協力でスタートした。体操の内容や曲は変遷を経て現在の第1体操(1951年から)、第2体操(1952年から)に至ったのだという。 東日本大震災最大の被災地、宮城県石巻市を中心に、東北弁(石巻弁)の掛け声が入ったユニークな「おらほのラジオ体操」(第1体操)が考案され、浸透していることはかなり知られている。石巻市民の復興への思いが込められたYouTubeの動画も公開されている。全部で3分48秒の動画を見ると、ラジオ体操第1のメロディーとともに「イズ、ヌー、サン、スウ」という石巻弁の掛け声が入り、これに合わせて体操をする子どもからお年寄りまでの石巻市民らが次々に登場する。最初はタレントの本間秋彦さん(石巻市出身)の「おらほのラジオ体操!」という掛け声で、大勢の市民が右腕を大きく上げる。そのあと何人かの顔がアップされ、続いて5人の主婦グループから始まり、それぞれ体操をする市民が映し出される。たしかに57秒経過すると、私の知った顔の若者5人が映り、笑顔で体を動かしている。 この体操は、大津波で壊滅的被害を受けた被災者の健康を願って発案された石巻市の地域コミュニティー再生プロジェクトだ。動画は多くの市民が協力、2011年9月10、11の両日撮影したという。掛け声を担当した本間さんは宮城県を中心にDJやタレント活動をしており、YouTubeは同年10月中旬に公開され、同時にCD(1枚500円でうち200円が復興支援に寄付される)も発売になった。。「ンデバメーカラ上サアゲデ、オッギク背伸ッコススッベシ」(腕は前から上に上げて、大きく背伸びの運動)「アスバ戻ステ手アスノ運動」(足を戻して手足の運動)など、本間さんのユーモアたっぷりの石巻弁の掛け声を聞いていると、こちらまで体を動かしたくなる。 体操が終わると画面には「大好きな東北、その方言のラジオ体操で、日本全国でラジオ体操しませんか。いつも東北が身近に感じられるように。東北の方々の元気な姿がともに感じられるように。私たちはきっと一緒にラジオ体操できる。きっと一緒に笑顔になる。震災半年後の平成23年9月10日と11日に石巻市内で撮影させていただきました。ご協力いただきました方々に感謝いたします。なお、CD販売の売上を震災地の復興義援金に当てています」という手書きの文字が出てくる。 米国の保険会社の幹部が「健康の秘密は正しい姿勢とユーモア」と話したように、健康維持にはユーモアと体力が不可欠だ。「おらほのラジオ体操」はそのユーモアの要素を持っていることが多くの人に支持されるゆえんなのだろう。ボランティアとして掛け声を買って出た本間さんも「復興には笑いと体力が必要です」と語っている。被災地から始まった体操はYouTubeとCDを通じて次第に各地に広がり、多くの人を元気づける存在になった。私も飼い犬が死んで、気持ちが落ち込んだが、体操を始めたことで少しずつ元気を取り戻している。