小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1013 あきれた流用続出の大震災復興予算 NHK特集で怒り心頭

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このブログでは、あまり悪口や罵詈雑言は書かないことを心掛けてきた。しかし、今度ばかりは、その原則を破ることにする。日本の官僚機構はここまで堕ちてしまったのかという思いを強くする報道番組を見たからだ。当初の放送日、その番組を見落としたのだが、知人のジャーナリスト・松舘忠樹さんが自身のブログ「震災日誌in仙台」で、激しく怒っている記事を書いていた。これを読んで13日未明に再放送されたものを見て、松舘さんの怒りが私にも伝染してしまった。 その番組は「東日本大震災『追跡 復興予算19兆円』という報道特集だ。1時間の番組を見て、日本の官僚機構から「志」や「良心」が失われてしまったことに愕然とした。官僚たちはハイエナになってしまったとしか言いようがない。それが正直な感想だ。 被災地復興のため政府は2011年度から復興予算(初年度は3次にわたって関連補正予算を編成)を計上、その総額は5年間で19兆円になる。(これを上回るのは確実との報道もある)財源は所得税や住民税などの増税によって確保するのだが、国民のだれもが、この予算は被災地復興に使われるのだと思っていたはずだ。しかし、それは違っていた。NHKの仙台放送局の取材班がこれまでに復興予算が投入された500を超える事業について内容を分析してみると、「流用」の事実が次々に浮上してきたのだ。 主なものだけでも「沖縄県国頭村の海沿いの国道の補修工事費として5億円」「(国土交通省)、「北海道と埼玉県川越の刑務所の職業訓練に2800万円」「「被災地でのテロ対策の車購入に2800万円」(公安調査庁)、「反捕鯨団体対策と調査捕鯨への補助として23億円」(農水省)「老朽化した国立競技場の補修費に3億円」(文部科学省)、「岐阜県関市にあるコンタクトレンズメーカーの新しいライン建設の補助など国内立地費用」(経済産業省)、「終了したはずの事業=外国人の若者を日本に招待する青少年交流=の復活」(外務省)―と、そのデタラメぶりには開いた口がふさがらない。 しかし、インタビューに対し、各省庁担当者は、その事業が「被災地復興につながる」と悪びれることなく(あるいはぬけぬけと)答えているのだから、あきれてしまうのだ。会計検査院という役所は、もう不要としか言いようがない。 政府は、昨年東日本大震災の「復興基本方針」を打ち出した。その中に「活力ある日本全体の再生」という文言があり、特集では各省庁は被災地と関係薄い事業に復興予算を使った根拠としていると分析していた。ずる賢いとしか言いようがないではないか。沖縄・国頭村の住民が、道路補修に復興予算が使われていたと教えられて「えっ!」と驚いていたが、それが普通の感覚だ。 この番組では、被災地の商店主らが共同で商店街を復活させるための補助金の申請が受け付けられなかった例や、被災地での医療活動のため病院再建に多額の借金をした医師のケースなども紹介し、被災地へ予算が足りない実態も浮き彫りにした。被災地のがれき処理(3121トン)には1兆円の予算が投入されたが、その使途についても検証していた。 先日のブログで石巻に行ってきたことを書いたが、同市は426万トンのがれきが発生、昨年度だけで40億円の経費が掛かっという。しかしその隣の東松島市は419万トンと石巻に匹敵するがれきが出たにも関わらず、5億円しかかからなかった。がれきを集める最初の段階で分別作業をしていて、最終的に石巻の7分の1の経費で済んだのだそうだ。「がれきの撤去費用は全国の皆さんから負担していただいているので、1円でも安くすることが使命です」と、東松島市の担当者は語っている。なぜ、国の官僚たちは、こんな常識が分からないのだろうか。 国家財政の窮迫度が増し、消費税の増税法案が成立した。官僚たちが民主党政権をなめきり、やりたい放題を続けている現状をみていると、増税の目的とした社会保障とは関係なく、自分たちの都合のいいことに増税分が使われてしまう恐れが強いことをいまから私たちは覚悟し、監視しておく必要があることを痛感した。 松舘さんは、この番組を制作したNHKの後輩に健闘を称えるメールを送ったそうだ。怒りのブログの結びには「被災地をよく知る彼ら、彼女らだからこそ、正当な憤りがすぐれた番組を作らせたのだと思う。後輩たちの仕事を誇りに思う」と書いてある。そう思う。怒りや憤りを失ったジャーナリストは、単なるレポーターにすぎない。NHKに負けない怒りの調査報道記事を読みたいと思う。