小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1197 時代・歴史を考えるきっかけ 小説「ああ父よああ母よ」と映画「小さいおうち」

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 最近、加賀乙彦の小説「ああ父よああ母よ」(講談社)を読み、山田洋次監督の映画「小さいおうち」を見た。 小説は1927年に中国の旧満州の地主の4男として生まれた主人公を語り部として、日中戦争から中華人民共和国の誕生を経て共産党独裁という厳しい政治体制の中で、文化大革命など激しく揺れ動く中国社会で過酷な生き方を強いられる中国人家族の物語である。

 一方、「小さいおうち」は直木賞を受賞したか中島京子の同名の小説を映画化した作品で、昭和初期に東京のある家に女中として住み込んだ女性の回想禄を軸に、日中戦争から太平洋戦争という時代の人々の暮らしぶりや心情を浮かび上がらせている。

 加賀は1929年4月22日生まれの84歳、山田監督は1931年9月13日生まれの82歳。高齢な2人が現役で芸術活動を続けていることは驚異である。それはさておき、加賀の小説と山田監督の映画を見て「歴史」や「時代」という言葉を思い浮かべた。

 加賀はこの小説を書いたあとの朝日新聞のインタビューで「ここ10年ほど、中国の人々と交流を深めており、『ああ父よ ああ母よ』は中国の知識人の苦悩が主題。中国では生家が貧農か地主かで一生が左右される。私の本の多くは中国語に訳されているので、中国人の友人も多く、彼らの生活や子供の頃の体験を聞く機会がある。小説を書く暇に中国へ行ったり、手紙を交わしたりして彼らの複雑な思いをまとめたものだ」と語っている。

 一方、映画の方は生涯独身を通したタキという女性が、若いころに女中として住み込んだ東京郊外の赤い三角屋根の平井家での出来事を回想禄として残した。その中には、ある恋愛事件が記されていた。タキの残したノートと未開封の手紙から、60年の時を経てその秘密が明かされる。

 以下は山田監督のこの映画制作の思いだという。 

「戦時下でもこんな幸せな暮らしがあったのだと、そんな幸せを戦争という大きな時代がのみこんでしまったということを知ってほしい」「今、この国はどこを向いているのか。幸せな方向へと向かっているのだろうか」。

 2月になった。歳時記によると、いまごろ(1月30日から2月3日ごろ)は72節気最後の「鶏始めて乳す」「にわとりはじめてにゅうす」といい、鶏が卵を抱き始めるころの意味だという。間もなく立春で、「黄鶯睍睆く」(うぐいすなく)季節になる。幸せな春が来てほしいと思うが、ものみな値上げの季節が迫っているのが現実である。嗚呼。

 「梅が枝にあれ鶯が鶯が」正岡子規・明治30年)