小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1020 トルコの小さな物語(3) 簡易ウォシュレットもある古代遺跡

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 米国の小さな町を舞台にした映画で、もたいまさこがほとんどセリフなしという難役に挑んだ「トイレット」(ウォシュレットのトイレが舞台装置に使われた)を思い出したのは、保存状態のよさで世界屈指といわれる古代ギリシャ・ローマ時代の「エフェソス遺跡」(エフェスともいう)を見た時だ。

 トルコには、映画にもなったトロイの遺跡はじめ多くの遺跡がある。中でも、エフェソスの遺跡は圧巻だった。 トロイ遺跡の入り口にはトロイ戦争の巨大な木馬の複製があり、観光客の人気を集めていた。

 遺跡は、このトロイの木馬の伝説を子どものころに聞いたドイツのシュリーマンという人物が私財を投じて発掘して見つけたという。約140年前のことだった。発見した財宝は彼が持ち出したらしく、トルコには残っていない。ここを訪れた人は城壁や城門などの跡から、往時のトロイの街の様子がどのようなものであったかを想像するしかない。 トロイに比べ、エフェソスの遺跡は当時の暮らしぶりがよく理解できる多くの「物」がそのまま残っていた。

 詳しくは、「地球の歩き方」などの旅行案内本に掲載されているので省略するが、図書館や劇場、売春宿、道路など様々な遺跡が完全な形で残っていた。当時の男性用の共同トイレもあった。50センチ間隔くらいで穴が幾つも空いていて、そこに男性が腰をかけて大きな用を足す。下には水が流れていて、男たちは紙を使わずにその水で手を使ってお尻を洗い、排泄物もそのまま流れていく仕組みだ。ウォシュレットの走りのようなものだ。画像

 トルコのホテルでは、洋式トイレの真ん中に小さな水道の蛇口が付いているものがあった。右側にある金具を回すと蛇口から水が出てお尻が洗われるという手動ウォシュレットのようなトイレが使われていて、エフェソスの名残かと笑ってしまった。 エフェソス遺跡には、大劇場もあって現在でもコンサートに使用されているという。

 ちょうどこの大劇場に行くと、高齢の外国人男性がよく通る声で歌を歌っていた。1つの歌が終わると、観光客から拍手と「ブラボー」「アンコール」という声が起きてまた歌い出す。彼は3曲目にナポリ民謡「サンタルチア」を気持ちよさそうに歌っていた。

 ジェンキさんのこの遺跡に関する説明で面白かったのは、図書館と売春宿がなぜ隣合わせているかだった。「図書館に勉強に行くというのを口実に、男たちは売春宿に遊びに行ったのでしょう」。 画像 エフェソス遺跡は、トロイよりも見応えがあるが、なぜか世界遺産には登録されていない。その理由は分からない。

 トロイは古代ギリシャの吟遊詩人といわれるホメロス叙事詩イリアス」の中のトロイア戦争(トロイ戦争ともいう)に書かれた伝説の都市として有名で、私も歴史の授業で習ったことを覚えている。映画化もされているので世界的著名度はトルコの遺跡の中では一番なのではないか。

 2つの遺跡に続いて見たボアズカレのハトゥシャシュ遺跡も世界遺産に登録されている。城壁に囲まれた丘にある大城塞に上る。息が切れるほどの急な坂道だ。なぜこのような丘に城塞を造ったのか、ガイドのジェンキさんは解明されていないと話してくれた。日本の多くの城が高台にあったのと同様、敵との戦いを有利にするのが理由だったのだろうか。ここからはエジプトよりも古いというスフィンクス(トルコ博物館に所蔵)も見つかっており、現地には観光客用にレプリカを最近とり付けたそうだ。

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画像 この近くのヤズルカヤの遺跡も、12人の黄泉の国の神々のレリーフなどがあって見応えがあったが、やはりエフェソスにはかなわない。ここでも想像力をたくましく働かせるしかないと思ってバスに乗り込んだら睡魔に襲われ、悠久の歴史をたどろうとする作業はストップしてしまった。(続く。次回はカッパドキア編です)