小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

947 表皮をそがれた柿、切り倒された桃の木 原発事故で果樹の名産地が危機

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 原発事故で福島県田村市川内村の一部に設定された警戒区域が解除になり、一部の住民が一時帰宅したというニュースが流れた。しかし、住民が元通りの生活に戻ることができるという保証は全くない。

 この地区よりも北部の伊達市ホットスポットといわれる地区があり、知人から最近の様子を知らせてきた。果樹の街である伊達も、原発事故によって手ひどい打撃を受けていることを思い知った。 以下は知人の報告だ。

伊達市梁川町干し柿(アンポ柿と呼ばれる)の産地である。しかし、その柿から国の基準を超える放射性物質が検出され、昨年は生産も出荷もできなかった。柿の木の表皮には放射性物質が付着しているため、市内の柿畑では表皮のはがれた柿の木が目立ち、樹木は白くて白樺と見間違うほどだ。それはこれまで見たことがない異様な光景だ。特に、山舟生地区に向かう道沿いは、そうした光景が広がっている。

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 この地区は五十沢地区、富野地区と同じように、昔からアンポ柿の生産で知られている。地区の人の話では、昨年は柿の残留放射線が高く、干し柿はすべて出荷制限がかかったという。表皮にも放射性物質が付着しているため、表皮を剥ぐことになったが、表皮を剥いだ高圧洗浄機の水は、畑に落ちているため、根から放射性物質を吸い上げないとも限らず、ことしも実がなってみないと、出荷できるかどうか分からない―という。

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 伊達市は、全体が桃の産地で、皇室に献上する桃を生産している農家もある。春には辺り一面が桃の花に覆われ、「ピーチロード」と呼ばれる道路もある。しかし、そこも多くの桃の木が無残にも切り倒され、切り株だけが異様にそそり立っている畑が多いのだ。丹精込めて育てた桃の木をチェーンソーで切り倒さねばならなかった農家の無念さを思うと、悲しさ、むなしさがこみ上げる≫

 福島県のホームページの「原子力発電所事故による農産物被害等関連情報」を見ると、多くの農産物が出荷制限になっていることが分かる。 昨年秋、訪れた奥会津地方でも「ことしは、ここら辺でも干し柿は出せないよ」と地元の人が話していた。

 4月1日から食品の放射性セシウムの基準が肉、魚、野菜などの一般食品が暫定規制値の1キロ当たり500ベクレルから100ベクレルになるなど、大幅に厳しくなった。産地の苦悩は益々深まる。この責任をだれが負うのだろうか。

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