小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

891 海外暮らしという人生の選択 チェンマイからの便り

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 かつて、同じ会社で勤務していた知人から突然メールをもらった。会社を辞めたあと、音信が途絶えていたが、このメールで奥さんと一緒にタイのチェンマイで7年前から暮らしていることが分かった。私は2005年1月、家族と一緒にこの街に行ったことがある。まさか、知人が住んでいるとは知らずに、楽しみながらこの街を歩き回ったのだった。

 知人は、友人からのメールで私がこのブログを書いていることを知り、しかもブログを見て私がチェンマイを訪問したことが分かり、懐かしくなってメールをくれたのだそうだ。

 知人は、チェンマイではドイステープ山(チェンマイを一望でき、山頂には黄金の仏塔で知られるドイステープ寺院がある)の麓にあるチェンマイ大学近くのコンドミニアムを生活の拠点にしているという。彼は「日本には年に1回墓参に帰るだけで、生活スタイルも考え方もすっかり楽観的なタイ人のようになってしまった」と書いている。

 毎日の生活は囲碁やテニス、スポーツジム通いなど趣味を楽しみ、奥さんは月に2回、ボランティアで日本に観光旅行に行ったことがあるような、タイの人たちに生け花を教えているそうだ。 当然、タイ語の勉強をしており、日常会話には不自由しない。

 タイでもNHKの国際放送を見ることができるので、日本のニュースを見て「失望、落胆、激怒している」という。異郷に住んでも、3・11に原発事故が追い打ちをかけた故国の惨状に心を痛めたに違いない。

 メールには「チェンマイ最大のイベント・ロイカトン』祭を来週に控えて、街全体が盛り上がり始めている」と、チェンマイ市内の様子も書かれている。そうだ、旧正月(4月)のソンクラーン祭り(水掛け祭り)と並ぶタイの二大祭が始まるのだった。

 辞書によると、ロイは「浮かぶ」、カトーンは「バナナの幹と葉で作ったボート」をいうそうだ。11月の満月の夜、バナナの幹を輪切りにしたものにバナナの葉や蘭の花などで飾りつけて、これにろうそくを立てて、川に流し悪霊を払うために精霊に祈る行事だという。インドのガンジス河の灯篭流しがルーツらしいが、日本のお盆の行事と似ている。

 今年のタイは大水に襲われ、特に首都・バンコクの中心部まで洪水が迫っているという。いまタイの人たちはつらい日々を送っている。そんな中でのタイの人たちは、このお祭りで洪水が早く収まるように祈るのだろうと思う。

 人の生き方は様々だ。知人のように日本を離れて海外で暮らす日本人が少なくない時代になっている。幸せを求めて選んだ生活なのだろう。人間の一生は1回しかないのだから、異なる環境下に身を置くのも悪くない。知人の選択に拍手を送りたい。