小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

855 被災地3県の県民性 探究心、向上心強い福島

 東日本大震災で特に被害がひどかった東北の岩手、宮城、福島3県の被災者に対し、国内外から礼儀正しく、忍耐強いと絶賛の声が上がったことは、ここで書くまでもない。その背景には何があるのだろうか。文春新書の「県民性の日本地図」(武光誠著)を読んでみた。

  武光氏の分析によると、まず、岩手県は。県民が最も敬愛するのは詩人の宮沢賢治であり、賢治の雨にも負けずという詩は、辛抱強く自然と戦い努力をする岩手県民の生き方を反映しているのだという。そして、岩手県民は自己の利益より、天下国家を考える傾向があり、7人の山口に次いで4人の総理大臣を出していると、指摘している。

  次に宮城県だ。中世までは閉鎖性を持っていたが、近世に入っておしゃれ好きの気質が目立ち、仙台の町並みは都会的。命日、盆、彼岸など祖先の祭りが盛んで、仙台の人は仙台の七夕が日本一と主張して譲らず、伊達者の伝統が残っている。

  では福島県は。会津中通り浜通りと3つの気候があり、気質風土も行政・経済も文化も異なるといわれる。この中で特に会津には会津藩以来の特有の(頑固な)気質が見られる。ただ、自然条件が多様で、江戸時代に多くの藩に分かれていたため、福島県民が共有する特有の気質はないという。全体的に見て、東北人特有の粘り強さや純朴さでは山形、宮城の人に及ばないが、それに代わって探究心、向上心があるというのが、武光氏の分析だ。

  大震災で岩手と宮城は大津波の被害が甚大だった。これに対し、福島は津波の被害に加え、原発事故が重なり、岩手、宮城両県に比べると、復興の見通しは立たない。だが、「探究心、向上心」はこの県の復興に必ず役に立つはずだ。

  武光は言う。「文明が進むにつれて、日本は急速に均質化してきた。今日のような情報のあふれる時代にあって、自分のなりの個性をより強く求めるようになっているのではないか」。

  3県の復興のキーワードはこの辺にあるのではないかと思う。大震災で大きなダメージを受けた3県は、その個性を最大限に生かすべきなのではないか。福島の現状は極めて厳しい。だが、常に前を向いて歩こうとする県民性は、いつかは魅力ある日本の原風景を取り戻すはずだ。