小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

818 美しい言葉をつかまえたい 想像力を失うと・・・

画像 推理作家・笹沢左保の父親で詩人の笹沢美明(1898―1984)は「言葉」という詩を残した。長い詩なので、冒頭から一部を紹介する。

 

 わたしは ときどき言葉をさがす、なくした 品物を さがすときのように、 わたしの頭の戸棚は混雑し 積まれた書物の山はくずされる。 それでも 言葉はみつからない。 すばらしい言葉、あの言葉。 人に聞かせたとき なるほどと思わせ、 自分も満足して にっこり笑えるような、 熟して落ちそうになる言葉、 秋の果実そのままの 味のよい のどを うるおして行くような あの言葉。 美しい日本の言葉の ひとつひとつ その美しい言葉をつかまえるために わたしはじっと 空(くう)を見つめる。 それなのに、その言葉は 遠くわたしから 遠く私から 去ってしまう。(以下略)

  東日本大震災原発事故以来、言葉について考えることが多い。安易に、便利に使われているのが「想定外」であり、政府・東電のこれまでの原発事故に対する姿勢は「事故隠し」という表現が一番的確かもしれない。

  つい先日、与謝野財務相は、閣議のあとの記者会見で東電の原発事故について「神様の仕業としか説明できない。(東電の地震津波対策は)人間としては最高の知恵を働かせたと思っている」と述べたと報道された。あまりにもひどい認識であり、この人の人格を疑った。

  彼の祖父母は歌人与謝野鉄幹、晶子であり言葉で名を残した。特に、晶子が日露戦争に出征した弟を思って書いた反戦歌「君死にたまうことなかれ」は有名だ。

  だが、その孫は原発事故という現代文明によって起きた事象を「神様の仕業」と断言した。政府と電力会社は「原発は安全だ、安全だ」と言い続けた。事故のあと、東電は事実を隠し続けたのに「人間として最高の知恵・・・」と擁護したのだから驚く。この人は原発事故で故郷を離れなければならなくなった多くの人たちの心情を想像することができないのだろうかと思う。

  原発事故をめぐっては「言った、言わない」という騒ぎが絶えない。

  言葉の専門家である劇作家の平田オリザ氏は、現在内閣官房参与という肩書を持っている。何を菅首相にアドバイスをしているか知らないが、ソウル市内の講演で、東京電力福島第1原発事故の対応で汚染水を海に放出したことについて「米政府からの強い要請を受けたものだった」と発言し、問題になると撤回した。政治家の悪い習慣に浸った言動としか思えない。

  この騒ぎ以外にも、言葉をめぐる問題が相次いでいる。政府要人から「言葉は遠くに去ってしまった」からだろうか。

 

(写真は遊歩道に咲く野の花)