小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

703 礼に始まり礼に終わるのに! 残念な世界柔道最終試合

 柔道をはじめとする「武道」は「礼に始まり礼に終わる」といわれる。しかし、柔道が国際的スポーツに発展し、勝負を優先するあまり、本来の礼を大事にする姿勢が失われているようだ。

  残念ながら、これを象徴する姿をきょう13日まで開かれた世界柔道東京大会の最後の試合で見てしまった。

  それは、男子無差別級決勝の上川大樹(明大)とテディ・リネール(フランス)が終わった後のことだ。試合は上川が指導を受けたが、両者とも有効なポイントがないままに5分の試合時間を終わり、有効ポイントをどちらかが獲得すればその時点で終了する3分間のゴールデンスコア(延長戦)に突入した。しかしここでも両者はポイントを得られない。

  2人ともフラフラになりながら、最後の力を振り絞る。身長で勝るリネールは右手で上川の背中を持ち、技をかけようとするが、決まらない。そんな世界の王者に対し上川は必死で足をかける。見ているだけで3回。リネールが後ろにひっくり返ればその時点で勝負は終わりだが、そこには至らない。リネールは横に倒れながらも踏ん張り、ポイントは出ない。

  延長戦が終わる。こんな激しい試合はこれまで見たことはない。どちらが勝ってもおかしくはない。ひいき目で見て、わずかに上川の方が有利と見た。審判ら3人の旗判定になった。2対1で上川が勝った。

  普通なら、ここで両者は握手をするか軽く抱擁して互いの健闘をたたえる。だが、上川とリネールにはこの儀式はなかった。頭を下げる上川に対し、リネールはすごい形相をしながら何やら抗議の声を上げ、悔しそうな顔をして上川を見ようとせず、礼もしないままに試合場を出たのだ。

  勝負は時の運であり、3人の審判の判定は決して誤審ではないと思った。6歳で柔道を始めたリネールは18歳5カ月で出場した2007年の世界選手権の100キロ超級で、史上最年少でチャンピオンになった。以来、試合で負けることはほとんどない。身長204センチ、体重129キロという恵まれた体自体が自信の塊のように見える。

  しかし、まさかの敗退だったのだろう。それが礼を失してしまう行動になったのだろうか。リネールの態度を多くの柔道少年少女が見ている。本当に強いチャンピオンを目指すなら、柔道の技を磨くと同時に礼を知る「心の修行」をすべきだと思った。