小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1782 絶対ではない人間の目 相次ぐ誤審の落とし穴

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 ゴルフのように審判がいない競技もあるが、スポーツ界で審判は重要な役割を持っている。審判の判断に勝敗の行方が大きくかかわることが多く、「誤審」が話題になることも少なくない。人間の目は確かなようで間違いもあるため、最近はビデオ判定も珍しくない。サッカーのJリーグの誤審に続いて、大相撲でも夏場所13日目の栃ノ心と朝乃山戦で日本相撲協会に抗議が殺到する誤審(私はそう判断する)が起きた。50年前の横綱大鵬の大記録が途切れた際の誤審をきっかけにビデオ判定が導入されたといわれるが、今回も人間の目を優先した結果、落とし穴に落ち、相撲ファンに不信感を与えてしまった。  

 米大リーグをテレビで見ていると、「チャレンジ」という言葉が時々使われる。監督が審判の判定に異議を申し立てると、ビデオ判定員に確認を求めるのだ。2014年から採用された制度で日本のプロ野球でも監督が判定に対し映像によるリプレー検証を求める「リクエスト」という制度が2018年から実施されている。セーフかアウトか、本塁打かファールかなどで、判定が覆ることがしばしばある。  

 微妙な場面で人間の目が、見間違いを犯してしまうことがよく分かる。その典型が、今月17日に埼玉スタジアムで開催されたサッカーJ(1)リーグ、浦和レッズ湘南ベルマーレの試合のゴールの判定だった。前半31分、ベルマーレの選手によるシュートがゴールしたにもかかわらず、主審は右のポストに当たってゴールラインを割って反対側のサイドネットを揺らしたとして、得点を認めなかった。映像を見ていると、だれが見てもゴールだと分かるのだが、主審も副審を含めてノーゴール(協会の調査に対し主審はボールが選手と重なって見えなかったと弁明し、副審も経験上からボールがポストに当たり、跳ね返ったと判断したと説明)としたため大問題になり、日本サッカー協会は主審らに最大2週間の試合割り当て停止の処分を下した。  

 そして、大相撲のことである。今場所の栃ノ心(それまで3敗)対朝乃山(同2敗)戦は、大一番だった。優勝を争うだけでなく、栃ノ心はこの日白星を挙げれば10勝となり、陥落した大関に復帰できるのだ。相撲は朝乃山が右四つから一気に寄り、後退した栃ノ心が土俵際ですくい投げを打って逆転勝ちしたかに見えた。行司も栃ノ心に軍配を上げた。だが、勝負審判の一人の放駒親方(元関脇玉乃島)が物言いをつけ、6分余という珍しく長い時間の協議の末、栃ノ心の右足かかとが寄られた際に出た(土俵外の砂についた)と判断、行司の差し違いとしたのだ。

 新聞報道によると、ビデオ室への確認では栃ノ心のかかとはついたように見えなかったが、結局長い協議の末放駒審判の意見が通った。NHKの映像でも栃ノ心のかかとがついたとは確認できなかった。勝負審判は「ビデオより放駒親方の目を重視した」と説明するが、歴史に残る誤審になってしまったといえる。  

 いまから50年前、ちょうど半世紀前になる。1969(昭和44)年3月10日。大阪で開催中の春場所2日目。それまで44連勝を続け、双葉山の69連勝に次いで記録を伸ばし続けた横綱大鵬は、前頭筆頭の戸田(のちの羽黒岩)と対戦した。戸田の突き、押しに土俵際に押し込まれた大鵬は、右へ回り込んではたきながら土俵を割った。その前に戸田の右足が土俵を割っていて、行司は大鵬に軍配を上げた。しかし、勝負審判から物言いがつき、「大鵬が先に土俵を割った」という主張が通り、行司差し違えとなり、大鵬の大記録への道は止まってしまった。

 テレビ中継の映像では戸田の足が先に出たことが映っていて、新聞の写真でも同様だったため批判が殺到した。このあと大鵬の休場、人気力士花田(のちの貴ノ花)の途中休場もあり観客が激減する結果となり、慌てた相撲協会は次の夏場所からビデオを勝負判定の参考として導入した。  

 相撲界にはこんな前歴があり、今場所もおかしな審判の説明があったから、余計に栃ノ心の負けという判断に批判が集まったといえる。これらスポーツの誤審は、人間の目は絶対であると過信してはならないことを示すものだ。相撲協会だけでなく、スポーツ界全体がこの事実を謙虚に受け止める必要があるだろう。

(14日目で朝乃山は大関豪栄道を下し、横綱鶴竜栃ノ心に敗れたため、優勝が決まった。朝乃山は実力とツキがあったし、栃ノ心は10勝を挙げ、大関復帰が決まった。だからといって、誤審の汚点がが消えたわけではない)  

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写真1、沖縄の名花、オオゴチョウ(大胡蝶)2、那覇市首里から見た夕景色