小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1693 高校野球美談の陰で 猛暑が及ぼす甲子園記念大会への影響

画像

 異常な暑さの中で甲子園の夏の高校野球大会が続いている。熱中症で足がけいれんした左翼手に相手校の3塁コーチの選手が駆け寄り、冷却スプレーで冷やしてやった、というニュースが美談として報じられている。これだけでなく、今大会は暑さのために毎日のように足がつる選手が続出している。さらに暑さが審判の判断にも影響しているとしか思えない「誤審」も目立っている。  

 夏の甲子園大会を主催する朝日新聞は今回が100回の記念大会ということで、地区予選前から大々的に高校野球に大きく紙面を割いてきた。スポーツ紙顔負けの扱いで、紙面を開いて何事かと思うほどだ。甲子園大会でも当然その紙面構成は変わらない。だが命の危険を及ぼすような、高温が続く中での大会。体力のある若い高校生でも熱中症にやられてしまうケースが少なくない。  

 こんな異常な夏。まだ序盤戦なのに、試合結果に影響を及ぼす2回の大きな誤審が出ているのだ。大会初日の8月5日。慶応高校(北神奈川)と中越(新潟)戦。2-2で迎えた中越8回表の攻撃。1死1、3塁で打者がバントをしようとしてやめたあと、3塁にいたランナーが飛び出した。慶応の捕手が3塁にボールを投げ、3塁手がベースに戻ろうとしてたランナーにタッチ、3塁審判はアウトを宣告した。

 しかし、テレビの画面を見るとタッチはしておらず、空タッチだった。3塁手のいかにもタッチしたというアピールに惑わされたとしか思えないアウトの宣告だった。結局中越は2死1塁となり、そのあとの打者がアウトになって無得点、慶応は9回裏にサヨナラ安打が出て3-2で勝った。「たられば」は後の祭りとはいえ、空タッチでセーフだったとすれば中越は得点でき、試合に勝ったかもしれないから、中越にとってこの判定は痛かった。  

 大会2日目の8月6日の佐久長聖(長野)と旭川大高(北北海道)の試合も、審判の判定が試合結果に大きな影響を及ぼした。2-3で負けていた佐久長聖8回裏の攻撃。2死で打者が打ったレフトライナーを、旭川大高の左翼手がダイビングキャッチしたかに見えた。だが、審判の判定はヒット。ビデオを何度見てもボールを直接キャッチしており、ワンバウンドだったという判定は誤審に違いない。

 この後、同じ左翼手は後続の打者のフライを落球するなどして2点が入り、佐久長聖が4-3とリード。旭川大高が9回裏かろうじて4-4の同点に追いつき、大会史上初のタイブレーク(延長13回以降、無死走者1、2塁の形で試合を進める方式)となり、14回に1点を挙げた佐久長聖が5-4で勝った。8回裏のレフトへの打球の判断が違っていたら、旭川大高に勝利の女神がほほ笑んだかもしれない 。

 翌日、朝日新聞タイブレークのことを大きく取り上げているが、8回の誤審は全く触れていない。前日の慶応―中越戦もしかりである。高校野球はクラブ活動の延長で、勝ち負けにはこだわらないという考え方がある。そして審判の判定が絶対といわれるほど審判の権威は高い。かつて「俺がルールブックだ」といって、頑固に抗議をはねのけたことで知られるプロ野球パリーグの二出川延明という名審判がいた。

 だが既に球界では米大リーグだけでなく日本のプロ野球もビデオ判定を取り入れている時代である。審判も神様ではないから、時にはボールの行方がよく見えずに判定が間違うこともあるだろう。まして今夏のような異常気象下で続けられる試合では、審判の判断もミスなしはあり得ない。

 こうした過酷な環境で行われる大会だらかこそ公正を期するためにもビデオ判定を取り入れるべきだと思う。だが、朝日をはじめ多くの新聞が何も書かないから、改革の期待はできない。旭川大高の左翼手が、甲子園での8回裏の出来事をトラウマとして残さないよう願うばかりである。