小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

632 人生の選択(2) 北海道・ひまわりの町に移住した知人夫婦

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 荻原浩の小説「明日の記憶」は、若年性アルツハイマーになった広告代理店勤務の49歳の主人公と、夫を献身的に支える妻の物語だ。

  渡辺謙主演で映画にもなり、この病気が社会的にクローズアップされた。周囲にこの病と一時診断され、都会の生活を捨て、北海道で新たな生き方を始めた知人(54)がいる。小説と酷似した知人夫婦の再スタートに、声援を送りたいと思う。

 東京で働いていた知人は昨年9月、病院でアルツハイマー認知症と診断された。奥さん(53)から、「最近様子がおかしい」といわれ、ある病院に行った。1階で受付し、診察を受けるためエレベーターに乗り、指定された階に行こうとした。

  しかし、その階で降りようとして自分が受付をしたのかどうか覚えていないことに彼は愕然としたという。その病院で若年性のアルツハイマーという診察結果を受けた彼は、悩んだ。このまま進行したらどうするか・・・。

  東京には若年認知症の家族会があり、彼はこの会を訪ね、代表の干場功さん(北海道北竜町出身)と出会う。干場さんの紹介であらためて別の病院で診察を受けると、認知症とは認められないが、このままの生活を続けていれば、発病の兆候があるといわれた。

 北竜町に家族会があることを聞いた彼は、悩んだ末奥さんと相談し、この町への移住を決断したのだった。たまたま、過疎地の活性化のため総務省が進めている「地域おこし協力隊」の隊員を同町が募集していることを知り、2人でこれに応募し、7月から町の非常勤職員に採用されることが決まった。

  勤務先を退職し既に町内に移住した2人は、町営住宅に移り住み、購入した車も町特産のひまわりカラーの黄色に塗った。7月に開設する町のブログを通じて、町の魅力を情報として発信する仕事が中心になるが、かつて広報やシステムを担当した彼には、ぴったりの仕事だろう。

  知人は、再出発に当たって「妻と2人、町中を、そして北海道中の自然を愛でながらゆっくり生きていきたいと思います」と語っている。私は、北海道(札幌)で3年半の生活を送ったことがあり、北海道は「第2の故郷」である。それだけに知人の選択を知って嬉しかった。

  既に2人で個人的なブログも始めており、北海道の暮らしに慣れるのも早いのではないかと想像する。何よりも、北海道の人たちの心は暖かい。そんな人たちに囲まれて生活する2人は、幸せな日々を送ることができるだろう。

  北竜町は札幌から車で2時間、旭川からは1時間の農村で、人口は2200人余と小さな町である。ひまわりの作付面積が日本一といわれ、ひまわりを中心に町づくりをしていることで知られる。町の農協職員が1979年夏、ヨーロッパに農業研修に行ったことがひまわり栽培のきっかけだという。職員らは内戦が始まる前の旧ユーゴスラビアにも行く。空港周辺には美しいひまわり畑が広がっていた。栽培の理由は植物性の食用油を採取するためと聞いた。

  帰国した職員らは、北竜でも食生活改善のためにひまわりの栽培しようと提案、翌年から栽培が始まる。それが町づくりにも採用され、現在では町内の作付面積は約100ヘクタールに達し、開花シーズンには数多くの観光客が訪れるようになった。

  私はことし旧ユーゴのクロアチアに行くことを考えている。広大なひまわり畑を見るのが目的の一つである。

 

(写真は、以前訪れたひまわりの里)