小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

591 乱読週間 6冊の文庫本

画像

 本を乱読する6日間を送った。電車で、新幹線で、飛行機で集中的に読んだのが以下の6冊だった。(1冊は再読)特に理由はない。文学作品が小型の電子端末で読めるようになるというニュースに感化され、紙の本へと回帰したのかもしれない。対象は分野を問わず、適当に選んだのだが、老眼鏡をかけても集中力が失われていなかったことに自分自身で驚いた。

  1、「大いなる看取り-山谷のホスピスで生きる人びと」(中村智志) 上映中の「おとうと」の原作ともいえるノンフィクション。山谷のホスピス、きぼうのいえの存在は「死生観」とは何かを考えさせられる。

  2、「賛歌」(篠田節子) 人の心を癒すヴィオラ奏者の音楽とは。大衆心理の不可思議さ。

  3、「夜のピクニック」(恩田陸、再読) 全校生徒が夜を徹して歩く「歩行祭」に参加した秘密を持った2人の高校生。遠くに去った青春時代。1人で徒歩旅行をした夏の日を思う。

  4、「優しい子よ」(大崎善生) ノンフィクションなのか私小説なのか。4つの物語が悲しみ、喜びを描き切る。

 (優しい子よ)小児がんの茂樹少年と高橋和女流棋士との交流を夫の大崎が美しい作品にした。痛みと闘いながら、高橋の足(4歳のときに交通事故に遭い、左足が切断寸前までの重傷を負い、その後も手術を繰り返した)が痛まないように祈る少年の純粋さ。少年の死後、彼の両親には悲劇が起きる。

 (テレビの虚空、故郷)名プロデューサーといわれた萩元晴彦との30歳という年齢を超えた友情。その死。

 (誕生)2人の死の後に続く小さいいのちの誕生。それは、いのちへの賛歌である。

  5、「タペストリーホワイト」(大崎善生) 70年代に頻発した内ゲバとは何だったのか。鉄パイプという凶器を振い続けたあの人たちは、どこに行ってしまったのだろうか。過激派の内ゲバ誤爆で殺された女性が妹へ残した言葉が心に残る。それは正論なのだ。

 「社会と国語は一生懸命勉強しなさい」「中学に進学したら、英語を。それと地理と世界史はだれにも負けないくらいに」(自分を解放するためにはそれが絶対必要なのだという)妹は、姉に続き恋人も誤爆で失う。妹は暗い絶望の淵から立ち直り、娘に姉の言葉を伝える。本の帯には「喪失と再生の物語」とあるが、苦難の末の再生だからこそ、生きる喜びがあるのだと思う。

  6、「幸せまねき」(黒野伸一) 平均的な家庭が崩壊の危機に。活躍するペットのネコと犬。ペットといえどもあなどれない。その動きはわが家の犬と共通する点が少なくない。以前、星野の「長生き競争」という作品を読んだことがある。厳しい現実も星野の手に掛かると、ユーモアになる。