小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

552 浅田真央の試練 挫折を乗り越えて

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 夜空を見上げると、10月末の夜のように月と木星の饗宴がまばゆい。あの時は半月の下に木星が輝いていた。それがいまは全く逆転し、木星が上で月が斜め下になっている。自然の摂理を感じながら、ある少女のことを考えた。フィギュアスケート界の天才、浅田真央である。 浅田真央の調子がおかしい。

 韓国の天才少女、キム・ヨナと常に世界のトップを競っていたのに、今シーズンはキム・ヨナに大きく差をつけられ、世界のトップ選手だけで争う「グランプリファイナル」にも出場できない。浅田のスケートに何が起きているのか。スポーツの世界は結果がすべてであり、非情なものだと思う。彼女の復活はあるのだろうか。

 2006年2月のトリノ冬季五輪のフィギュアで荒川静香が金メダルを取った。このシーズン、15歳の浅田はグランプリファイナルで優勝、全日本でも2位となり、オリンピックに出場し、活躍できる力があったにもかかわらず、年齢制限を理由にオリンピック出場への夢は断たれた。前シーズンの実績で選ばれた安藤美姫は目を覆いたくなるほどの不調で、トリノ五輪は荒川の活躍だけが印象に残った。

 当時、浅田に対し「まだ若いのだから次がある」という声がかけられた。この声に応えるように順調に成長し、昨シーズンまでの活躍はめざましいものがあった。ライバルキム・ヨナとの勝負も面白かった。だが、今シーズン、浅田から溌剌さが消え、演技終了後の笑顔も見られない。 「天才も人の子」という格言が当てはまるのだろう。野球界で、天才といえばイチロー選手である。そのイチローでさえWBCの疲れで胃潰瘍となり、今シーズン初めは故障者リストに入った。

 浅田の不調の原因は私にはよく分からない。報道された情報を基に考えると、得意だったジャンプの3回転半のトリプルアクセルがうまく飛べないという技術面に加え、体調やメンタル面での問題が重なり浅田らしかぬ成績になっているのかもしれない。それがスポーツの難しさなのだろう。 浅田の現在の姿は、実は人生と似ていると思う。人生で順風満帆に終わる人はほとんどいない。

 多くの人は時には強い逆風に立ち向かい、挫折する。人はそうした挫折を乗り越えてたくましく成長し、人間的な魅力を身につける。グランプリファイナルへの出場を逃した浅田は、スケート選手としての挫折を経験した。これを乗り越え、成長を遂げた姿をみたいと思うのは私だけではないだろう。

 浅田が好調だったときには、飛びついたテレビ局がいまは冷淡だ。浅田はグランプリへの出場が難しくなったあと、実は「またスタートラインに立ったと思って、一からやり直しと思って頑張ろう」と語っている。格好良くいえば「初心に戻れ」という言葉と共通する思いであり、復活の芽は確実に育っているようだ。麦は踏まれてこそ強くなり、よい穂を実らせる。浅田もいま「麦踏みの季節」を迎えているのだろうか。