小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

506 世界陸上マラソンのわき役 トヨタのプリウス

 

  ドイツの首都ベルリンで開かれている世界陸上は大詰めを迎え、男子と女子のマラソンが日本時間22、23の両日相次いで行われた。男子の佐藤が6位入賞をしたのに続いて、女子では尾崎好美が銀メダルを獲得した。そのテレビ中継になぜか日本の車が頻繁に映し出された。

  ドイツは世界的自動車メーカーがいくつかある。中でもBMW、メルスデス・ベンツ(ダイムラー)、フォルクスワーゲンは、日本でも車好きの人には、一度は乗ってみたい車だ。そんな名車を製造する会社がありながら、男女のマラソンに使われたのは、日本のハイブリット車プリウストヨタ)だった。

 プリウスは、世界でもトップの燃費性能を誇り、5月18日に3代目が発売された。世界同時不況の影響で日本の車も販売不振となり、トヨタも巨額の赤字を計上している。プリウスは、そんなトヨタの再生を支える車になりつつある。発売以来、購入希望が殺到し、現在では契約から納車まで9ヵ月はかかるという超人気車になった。

  そのプリウスが審判員などを載せたマラソンの伴走車として、ベルリンの街を走った。マラソンは42・195キロの競技である。それに対し、プリウスの最高燃費はリッター38キロ(一番低グレードの車種L)で、通常は35キロといわれる。

 マラソンの伴走はスピードも遅いのでよく見て30キロ程度の燃費だろう。そう計算するとマラソンの伴走で消費するガソリンは約1・4リッターだ。日本円のガソリン代に当てはめると170円(現在、近所のスタンドはリッター118円)を少し下回る程度だ。地下鉄(東京メトロ)の1区間とそうかわらないのだから驚きだ。

 22日の男子は、最初からメダルは無理な位置にいたので、どうしてもベルリンの街や伴走車が目に入った。しかし、23日の女子の方は、ハラハラしながらテレビの画面を見つめる。それにしても、なぜトヨタの車が走っているのかと思う。

 この大会のスポンサーとして、トヨタが巨額の資金を出しているから、テレビにしばしば映し出される伴走車にもプリウスが選ばれたのだろう。このほか日本企業ではTDK、EPSON、SEIKOがスポンサーとなり、放映権はTBSが獲得した。だから、選手たちはこうした企業の名前入りのシャツを着ている。

 いまや、かつてのアマチュア精神が薄れた時代だ。マラソンの中継を見ながら、スポーツの在り方も拝金主義の時代を反映していることを感じざるを得なかった。選手は懸命にやっていてことは間違いない。しかしこうした背景が世界陸上だけでなく、オリンピックをはじめとする世界的規模のスポーツ大会にはある。近代五輪の父といわれるクーベルタンが、いまのスポーツ界の現状を見たら卒倒するかもしれない。