647 カタログより格段に低いエコカーの燃費 国の基準という数字のカラクリ
長年車に乗っていて、だれも文句を言わないのが不思議だと思うのは燃費のことだ。カタログで示された燃費と実際の燃費の隔たりが大きいことに腹を立てた人は少なくないはずだ。
最近、エコ時代を反映してトヨタのプリウスやホンダ・インサイトなど、エコカーが好調な売れ行きを示している。これらのエコカーはたしかに燃費は格段に向上しているものの、マイカーとして利用している人たちがカタログ通りの数字で走るのはとても無理である。数字のカラクリに、消費者はだまされているといっていい。
例えば、プリウスは「10・15モード」で38Km/L、インサイトは30・0Km/Lなどと表現され、新聞やテレビでもこの数字が使われている。新聞によっては「燃費は、1リットルあたり38キロ(カタログ記載値)」と「カタログ」を明記している場合もあるが、テレビでは「1リットルあたり38キロメートル走行の燃費性能を実現しました」など、「カタログ」あるいは「10・15モード」は省略されているのが普通だ。だから、多くの人は、これに近い走りをすると思ってしまう。
ところが、実際にはエコカーでも、このような驚異的数字は達成できない。10・15モードは「カタログ」の上での数字だということの説明が足りないために、私を含めて多くの利用者は早トチリしているのである。10・15モードは、国土交通省が定めたエンジンが温まってから測定する方法で、2011年4月からはすべての車のカタログ表示が、実際の走行パターンに近い測定法を取り入れた「JC08モード」に変わるという。
それでも「プリウスの燃費は最大32・6キロメートルと、e燃費(登録ユーザーが給油量と走行距離を携帯電話から入力して燃費を算出する方法)とのかい離はまだ大きい」と、5月25日付けの朝日新聞のエコ特集記事は指摘している。
この記事によると、e燃費方式ではプリウスがリッター当たり21・7キロ、インサイトが19・2キロという数字だ。実際にエコカー(プリウス)を運転している私は、これが妥当な数字だと理解できる。
メーカーに言わせれば、国が定めた基準に従って測定した数字をカタログに掲載したもので、ユーザー(消費者)をだましているわけではないということだろうが、やはりおかしい。「通常の使い方なら、実際の燃費は○○程度です」と、実験結果のデータを盛り込んだ注意書きをカタログに入れるのがCSR(企業の社会的責任)意識が浸透した現代の常識のはずだ。それは実現困難なのだろうか。
私自身、前の車に比べ、燃費が約3倍になった現在の車に不満はない。車を乗り換えて、あらためて日本の自動車メーカーのすぐれた技術力を実感している。それだけに、カタログ数字という、実用とはほど遠い数字を前面に出すことに後ろめたい気持ちを持つ経営者はいないのだろうかと考え込んでしまうのだ。
経済の高度成長期ならいざ知らず、エコを意識している時代に入った以上、メーカーも国も車の燃費の表示について、もっと厳密に考えるべきときだと思う。