小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

476 夏の過し方 あるゴールデンレトリーバー

 蒸し暑い日が続き、10日には東京の最高気温は30・3度を記録した。夕方、少し早めにhana(ゴールデンレトリーバー、7歳)の散歩に出た。

  なるべく日陰を選んで歩いた。1時間近く散歩をして、家に近づいたところで、様子がおかしくなった。急に吐き気をもよおし、途中で飲んだ水や胃の内容物を吐き出したのだ。家に帰ってもそれを2回繰り返した。犬にも熱中症があるという。慌てて動物病院に連れて行く。

  顔見知りになったおじいちゃん先生は、冷静だ。5月にやった血液検査のカルテを見ながら「この子は胆のうが少し弱くなっているという数字が出ているね。肝臓にも影響している。暑い時間帯に散歩したので体力が弱って吐いたんでしょう」という。「熱中症」という言葉は出さないが、その症状が出たようだ。

 獣医師の説明は続く。「ゴールデンレトリーバーは、寒さには強いが夏の暑さは大敵だ。毛は長いうえに汗をかくことができない。胆のうと肝臓が少し弱っているので、脂っこいものは決して食べさせてはいけない」そんな話をしたあと、体温を測る。38度。平熱だという。そのあとに注射を2本。犬は診察台の上でじっと我慢をしている。

 日本の夏、犬たちは人間以上につらいのかもしれない。地球温暖化によって、そのつらさは増す一方のようだ。この季節の過し方は難しい。

  私も以前、軽い熱中症になったことがある。その気分の悪さを思い出して、犬も苦しいだろうなと、申し訳ない気持ちになった。犬は強い動物であるはずだが、動物病院の繁盛ぶりを見ていると、そうでもないことが分かる。ジャック・ロンドンの「荒野の呼び声」のバックという犬は過酷な自然の中で生き抜くが、ペットとして人間とともに暮らす犬たちは本来の強靭な生命力が弱くなっているらしい。

  同じゴールデンレトリーバーが野犬になってしまったのを見たことがある。飼い主がドライブに遠くまで連れて行き、ふとしたはずみでリードが抜け、逃げてしまった。すぐに戻ってくると思っていたらしいが、犬は飼い主の車には戻らず、野犬になってしまった。

  この犬は飼い主と別れた周辺一帯を根城にして、強い生命力を発揮した。民家近くに姿を見せるが、住民が餌を与えても、警戒心が強く決して口にしない。保健所の人たちが捕獲しようとしたが、成功しない。この犬種は、人懐こいはずだが、人間に近寄ろうとしないのは、危害を加えられたことがあるからなのかもしれない。

  餌はどこで得ているのか、それを知る人はいない。住民たちは近くに大型の養鶏場があるので、時々ニワトリを狙って食べているのかもしれない、などとうわさをしているが、真偽のほどは分からない。野犬になっても、その犬は美しい毛並みを保っていた。