小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

383 道元の四季の歌 映画「禅 ZEN」

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 一般的な日本人は信仰心が薄いのではないかと、以前のブログで書いたことがある。しかし、現代のような「混迷の時代」では、宗教に対する関心が高くなるのは当然かもしれない。 曹洞宗の開祖、道元の生涯を描いた映画「禅 ZEN」を見た。鎌倉時代、中国に渡り峻厳な如浄という禅門の僧の下で修行の末、印可を得て帰国した道元は戦乱の世、迫害を受けながら、禅の修行の拠点としての永平寺福井県)を開く。

 厳しい修行で知られる道元だが「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり」という四季の歌がある。道元より後の時代に生きた良寛ノーベル賞作家の川端康成がこの歌を愛したそうだ(松本章男著、道元の和歌)。

 実は、道元は和歌も数多く残していて、花鳥風月を知る人間性豊かな僧だったのだ。 映画は、中村勘三郎の息子の歌舞伎役者、中村勘太郎道元役を演じ、後に尼になる薄幸な女性役は内田有紀だった。いかにして道元が禅を普及させたかを描いた長い映画である。  

 しかし、怨霊の出現に悩む執権北条時頼を、身命を投げ打って救う場面など全体に退屈しない筋立てだと思う。 道元は争うことをしなかった。道元の禅が普及するのを警戒した比叡山の僧たちは、しばしば道元の寺を襲って焼き討ちにする。それに対して、道元は涙を流しながらも耐える。ひたすら、自分を無にして座り続ける禅こそ生きる道と信じたからだ。

世界は「争い」の歴史を繰り返している。戦争の世紀といわれた20世紀が終わり、21世紀になっても戦争はやまない。道元がこの実態を見たら、何と言うだろうかと考えた。

 9日の毎日新聞夕刊に画家の平山郁夫さんのインタビュー記事が載っていた。世界で横行するテロについて「軍国主義は一種の原理主義だと思う。イスラム教徒の名の下でテロを引き起こしているのは一部の強硬な原理主義者だ。でも、他の十数億のイスラム教徒は自由であり平等であり親切だ」とも語っている。宗教に対する深い理解を持つ平山さんらしい言葉だ。