小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

807 翻訳本に浸る ユーモア小説・動物エッセー・冒険ミステリー

脈絡なく翻訳された本を読む。 画像英国ユーモア小説の古典といわれる「ボートの三人男」(ジェローム・K・ジェローム著)、「ソロモンの指環」の著者で動物行動学という分野を開拓、ノーベル生理学医学賞を受賞したコンラート・ローレンツのエッセー集「人イヌにあう」(小原秀雄訳)、17言語・世界37カ国で翻訳出版されたカルロス・ルイス・サフォンの長編小説「風の影」(木村裕美訳)の4冊(風の影は上下2冊)だった。 全く分野は違う。丸谷才一が翻訳した「ボートの三人男」は、気分的に落ち込んだ3人の男がイヌとともにテムズ河をボートで愉快な旅をする話だ。解説の井上ひさしは「時間のたっぷりあるときに、傍らにウイスキーの瓶を置き、スコット・ジョップリンラグタイムでも聞きながら、文章をなめるようにゆっくりと読んでほしい。速読するのは損だ」と書いている。せっかちでジョークやユーモアを嫌う人には合わない作品だと思う。 画像イヌを飼いたいと思う人は「人イヌにあう」の一読をお勧めする。イヌの起源(ジャッカル系説をとっているが、異論も出ている)から様々な習性までよく理解できる。愛するイヌとの別れはいつかはやってくる。それをローレンツは「忠節と死」で「人間の生活においては、すべての喜びは悲しみによってあながわなければならない」と書き、バーンズの詩を紹介する。 喜びはけしの花の開くに似たり 手にとるや花はこぼれ落つ あるいは、川面に散る雪か ひととき白く―やがて永遠に溶けゆく ローレンツのこの言葉もイヌを飼う本質を突いている。「均整のとれたイヌよりも忠実で勇気のあるイヌをたった1回だけでも育ててみることは、試みるだけの価値がある」 画像そして「風の影」である。スペイン・バルセロナに住む少年ダニエルは、父親に連れて行かれた「忘れられた本の墓場」で一冊の本を持ち帰る。それがなぞの作家、フリアン・カラックスの「風の影」だった。ダニエルがフリアンとはどんな人物だったかを調べ始める。すると、彼の周辺には私の想像を超える複雑な出来事が展開する。日本のミステリーとは一味違うスケールの大きさを感じる本だ。ドイツの元外相・ヨシュカ・フィッシャーが絶賛し、それによって「サフォンマニア」という言葉が生まれたというから、熱烈な読者が多いのだろう。物語をつくる発想力は、大変なものだと思う。 東日本大震災から1カ月以上が過ぎた。とはいえ、あの惨状が頭からは消えない。そうした精神状況では日本の本は手に取ることができなかった。その結果が3冊の本だ。手元にはさらに、中野好夫訳の「チャップリン自伝」が置いてある。