小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1852 ヒーロー日替わり時代 幕尻力士優勝の珍事

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 NHKがテレビとラジオで生中継するスポーツは、現在では大相撲くらいしかない。それほど大相撲は国民的人気スポーツの位置を占め続けているのかどうか、私にはよく分からない。大相撲初場所で幕内番付の一番下位である前頭西17枚目(いわゆる幕尻)の徳勝龍が休場した横綱を除いて最上位の東大関貴景勝を結びの一番で下して優勝した。徳勝龍の活躍は評価するが、幕尻の力士が最上位と当たって勝ち、優勝したことはまさに「珍事」といっていい。こうした今場所を見ていて、大相撲界が危機に瀕しているように思えてならない。  

 初場所。優勝した徳勝龍と13勝2敗と大活躍した正代、小さな体で連日国技館を沸かした炎鵬を除けばこれといって目立った力士はいなかった。遠藤は途中で優勝レースから外れてしまった。白鵬鶴竜の両横綱は早々に休場し、カド番の大関豪栄道も5勝10敗と大きく負け越し大関陥落が決まり、引退することになった。大関から落ち10勝を挙げれば戻るチャンスがあった関脇高安も負け越し、1人期待された大関貴景勝も組まれたらダメという脆さを見せて徳勝龍に完敗してしまった。優勝インタビューで「自分なんか優勝していいのでしょうか」と語ったが、この言葉は徳勝龍の謙虚さを示すと同時に今場所の混迷ぶりを物語っている。  

 これまでの角界は歴代、強さと華やかさを併せ持つヒーローがいた。幕内優勝43回という不世出の記録を達成している白鵬は休場が珍しくなくなり、強引な取り口の勝ち方が目立ち、ヒーローという呼び方はできない存在になってしまった。毎場所のように違う力士が優勝するのが普通になっている最近の角界は、ヒーロー日替わり時代といっていい。昨年優勝した玉鷲初場所)と御嶽海(秋場所)は、その後目立つ活躍はしていない。  

 どんな世界でも新旧交代の時期がやってくる。サッカーで現役選手として頑張る三浦知良(52)は別格として、スキージャンプのレジェンドといわれた葛西紀明(47)は最近、往時の輝きはない。休場を繰り返す両横綱は全盛期をとうに過ぎており、いつ引退してもおかしくないのを見ても、角界が新旧交代の時期にやってきているのは間違いない。それだけに、近い将来2人に代わって横綱になる力士が出てこないと、角界の危機は高まるだろう。  

 今場所、小さな体で勝ち越した炎鵬はけがをしないかどうか心配になる。このブログでも書いたことがあるが、以前、宇良という小さな力士がいた。前頭4枚目まで上がり、現在の炎鵬と同様、人気者になった。だが、右ひざを痛めて序二段まで下がってしまい、幕内復帰は容易ではないのが現状だ。力士全体が大型化した時代に「小よく大を制す」を体現する炎鵬に惹きつけられる相撲フォンは多い。かつての舞の海や数年前の宇良の再来といえるだけに、炎鵬には、けがとの闘いに負けないでと願うのだ。

 写真 遊歩道に咲き始めた紅梅。春は次第に近づいている。  

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