小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

923 震災の不条理訴える2枚の写真 高倉健さんが持ち歩く宝物とは

 80歳になった高倉健さんが6年ぶりに出演する映画が8月に公開されるという。撮影中、高倉さんは台本に東日本大震災直後に撮影された1枚の少年の写真を貼り付けて持ち歩いていると新聞に出ていた。 その写真を見ると「ギュッと気合が入る」のだそうだ。

 東日本大震災の被災地で撮影された写真には心に迫るものが少なくない。高倉さんの心をとらえた少年の写真と、ママへと題したもう1枚の少女の写真からは、不条理な災害に遭遇した被災地で生きる子供たちの健気さが伝わってくる。

 高倉さんが持ち歩いている写真は、共同通信のカメラマンが3月14日に宮城県気仙沼市で撮影。「がれきの中で水を運ぶ少年」と題して配信された。ジャンパーを着て、長靴姿の少年が両手に大きなペットボトルを持ち、がれきの中を歩いている。歯を食いしばるように、口元を引き締めている。

 高倉さんはこの写真を北海道新聞で見て、「うわっ」と感じ「宝物」として切り抜き、この写真を見るのが日課になっている。高倉さんと少年の写真の話は最近共同通信から「残骸の中を歩く少年の姿胸に 被災地思い新作に主演」という見出しで配信され、私も読んだ。

 もう1枚の少女の写真は「ままへ」と題して、読売新聞の3月31日朝刊の1面に掲載された。読売のカメラマンは、震災から1週間後、岩手県宮古市の漁村で両親と妹を失った4歳の愛海ちゃんという少女に出会った。

 その後、愛海ちゃんに時々会いに行くと、ある日、「ママに手紙を書く」と話し、大学ノートに色鉛筆で手紙を書き始めた。それが「ままへ。いきているといいね。おげんきですか」という手紙で、途中で愛海ちゃんは鉛筆をもったまま寝てしまった。

 その姿が新聞に載った。この写真を見た中国・東北大学の女子大生が「ずっと愛海ちゃんを応援します」という手紙形式の作文を書き、ある作文コンクールで最優秀作品に選ばれ中国でも話題になった。 2枚の写真は、東京写真記者協会のホームページの「この1枚」で見ることができる。パソコンの画面からも写真の威力を感じ、健さんや中国の女子大生の思いを理解した。