小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

928 関アジと寒ブリと… 名物を食べてみる

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 私は食通ではないしグルメでもない。地方へ出かける機会が多いが、その土地の名物料理を食べる興味はあまりない。だが、たまたま連続して名物の魚を食べる機会があり、日本の食の豊かさを体験した。

 関アジという言葉は何となく知っていた。しかし、それが具体的には「豊予海峡(速吸瀬戸=はやすいのせととも呼ばれる)で漁獲され、大分県佐賀関港で水揚げされるアジ」のことまでは説明を聞くまでは知らなかった。

 関サバも同じ海峡で取れ、佐賀関港に揚がるサバだそうだ。関アジは1990年代偽物が出回って全国的に高級ブランドとしての認知度が高まったという。偽物が認知度アップに貢献したのだから皮肉である。

 12月、大分の知人が通うという地元の居酒屋に行くと、関アジの刺身が出てきた。身が締まっていて歯ごたえもある。なるほどこれが関アジかと思った。地元価格というのか、値段も高くない。ウィキペディアには「この海峡は海流が速く、1年を通して餌になるプランクトン等が豊富にあることから、回遊魚のアジ、サバが居ついている。アジは育ちがよく身が締まっている」とあった。

 一方、今の時期の富山湾(氷見が中心)で捕獲されるブリは、産卵前で身が引き締まっている。脂が乗っており「寒ブリ」と呼ばれ高級魚に位置付けられている。定置網で傷をつけずに捕獲し、鮮度を保つため漁船の中で大量の氷水につけ「沖じめ」(仮死状態)にしてすぐに港に運ぶのだという。

 富山の人たちは回転ずしのことを「回りずし」というが、知人にだまされたと思って行ってみたらといわれ、昼食を食べに足を運んだ。そこで寒ブリの刺身とブリカマの塩焼きを食べてみた。刺身の方はトロを食べているような感覚だ。

 ブリ大根はよく食べるが、刺身は縁がなかったので、そのおいしさに驚いた。 地元の人によると、ことしは寒ブリが豊漁で、氷見市内では1本8・2キロの寒ブリが2万4500円で売られていた。その隣には半身で8・7キロが1万3500円の値がついていた。豊漁というから、この価格は例年よりも安いのだろう。

 ブリは成長するに伴って名前が変わるので、出世魚ともいわれる。地域で微妙に呼び方が違うが、ブリと呼ばれるまで4、5回名前が変わるのだから面白い。この魚の養殖ものはハマチというのだそうだ。そんなことを考えながら順番待ちの人も多い回りずしの人気店に入り、物は試しとカマの塩焼きも食べてみた。

 その出世魚のカマは手に負えないくらい身が豊富だった。 魚が好きな人ならば骨だけを残してきれいに平らげることができるはずだが、悪戦苦闘の末、カマをズタズタにしてしまった。近くにいた地元の人からは、何と下手な食べ方をするやつだと軽蔑されたかもしれない。お許しいただきたいと思う。

 テレビの旅番組で、レポーターの若い女性がスウェーデンで「世界一臭い食べ物」と呼ばれる「シュールストレミング」を、鼻をつまみながら食べるシーンがあった。ニシンを塩漬けにして缶の中で発酵させた漬物の一種で、ポテトサラダなどと付け合わせて食べる。あるいはスライスしたタマネギとブラーナというヤギの乳でつくったバターとクリーム、シナモンとこの漬物をまぜ、パンに載せるという食べ方もあるらしい。

 室内では臭いので屋外で食べることが多いそうだ。レポーターの鼻のつまみ方を見たら、ひどい臭いなのだろう。 日本でも「伊豆諸島」特産の「くさや」という臭い食べ物があり、人間の食に対する追求、貪欲さは尋常ではないと思う。

「関アジ」と「寒ブリ」は、「シュールストレミング」のように原材料に手を加えたものではない。産地の特性を生かした名物なのである。これらは産地から離れた地域でも食べることは可能だが、値段や新鮮さという点でも現地で食べるのが一番口に合うことは言うまでもない。