小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

880 持続するのか日本人の伝統的価値観 スペイン皇太子賞の福島を救った人たちに学ぶ

画像 東電の福島第一原発事故発生後、被害拡大防止に取り組んだ原発作業員、消防士、自衛官らにスペインのアストゥリアス皇太子賞が贈られた。

 個人を特定せずにこられの人たちが平和部門受賞の対象になり、代表5人がスペイン北部のアストゥリアス州の州都オビエドで同じ称号を持つフェリペ・デ・ボルボン皇太子から賞状を受け取った。

 授賞式を伝える動画サイトを見た。他の部門の受賞者らに比べると5人の表情は硬かった。それは当然だろうと思う。だが、この人たちがいなかったなら原発事故は深刻度がさらに増し、日本の未来は失われていたかもしれない。

 それは9月18日に共同通信が報じた菅直人前首相とのインタビュー記事で裏付けられている。 菅前首相はこのインタビューで、3月11日の東京電力福島第1原発事故発生を受け、事故がどう進行するか予測するよう複数の機関に求め、最悪のケースでは東京を含む首都圏の3千万人も避難対象になるとの結果を得ていたことを明かしたのだ。

 最悪のケースを防いだ人たちが外国から表彰されるということに、政府関係者はどう思っているのだろうか。

 以下は皇太子賞受賞の理由(原文はスペイン語)だ。 後段の「日本社会の価値観」は、失われつつあるが、持続させたいものだと思う。

《フクシマの英雄たちは、健康上への影響を省みることなく、命の危険を冒してまでも作業に当たるという行為を通して「人とは一体なんなのか」という「人間の条件」(アーレント)=人としての崇高な価値を最も引き上げた人達である》

《彼らの行動は、個人や家族を犠牲にしてまでも社会的に大きな価値(社会的共通資本)を守ると言う使命感、自己犠牲、謙虚さや寛大さ、そして勇敢さといった、日本社会に深く根ざした価値観を体現したものである》

 ところで、フェリペ皇太子が[「アストゥリアス皇太子」や「アストゥリアス公」といわれるのは、なぜなのだろう。アストゥリアスはスペインを構成する自治州の一つ。スペインの憲法第57条第2項には、国王の法定推定相続人は「アストゥリアス公」の他に「スペイン王位継承者に伝統的に結びついた称号」を有すると規定しており、現在のフェリペ皇太子はアストゥリアス公と呼ばれているのだそうだ。

 このアストゥリアスはスペインの歴史でも重要な都市で、レコンキスタイスラム教徒に占領されたイベリア半島キリスト教徒の手に奪回する運動)の出発点だったという。スペイン国王の継承者(推定相続人という)は、伝統的にこの地名をとった称号で呼ばれることが多いことを今回初めて知った。

 2年前にスペイン各地を歩いたが、ここには行く機会はなかった。レコンキスタという言葉で思い浮かべたのはグラナダにある世界遺産アルハンブラ宮殿だった。ここもイスラム勢力からレコンキスタで奪回したことで知られている。