小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

87 ドイツの犬はなぜ吠えない?

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 日本のペット数は増える一方のようだ。しかし、ドイツに比べればまだまだらしい。日本では100人に対し犬の数は2・2匹だが、ドイツは5・5匹だ。犬の数が多いにもかかわらずドイツの犬は、人間に対してあまり吠えることはないという。

  ドイツに住むフリーランスのジャーナリスト、福田直子著「ドイツの犬はなぜ吠えない?」(平凡社新書)を読むと、その事情が理解できる。ドイツでは、犬は散歩のときにリード(ひも)をつけなくてもいいし、店には犬専用の駐車場もあるのだそうだ。しかも、目抜き通りは、犬の糞を常時拾ってきれいにしてくれるという。半面、犬のしつけは厳しく、犬をしつける「犬の学校」も現にある。

  だから、大多数の犬たちは、人間に対して吠えることはしないのだ。仮に、散歩中に走り出したり、吠えたりすると「この犬は、まだ訓練が足りない」といわれ、再教育を受けることになるのだ。だから、ドイツでは吠える犬は少ないということのようだ。

  ドイツ人は犬だけでなく動物を大切にする。ヒトラーが最期まで愛犬を大事にしていたのは有名な話である。動物愛護の精神も強い。動物愛護団体が、大学生に対し「ミルクは飲むな。それよりもビールは栄養があるので、ビールを飲みなさい」とまじめに勧めたという話もこの本に書かれている。

  牛から牛乳を絞るのは動物虐待だから、ミルクも飲まない方がいいという主張なのである。過激な考えもここに至ると、笑い話になってしまうが、動物愛護団体のメンバーは大真面目なのである。 

 それは別にして、狭い庭で散歩のほかは一日中鎖でつながれたままの日本の犬と比べると、ドイツの犬は幸せそうだ。鎖につながれ、不自由な時間を送っているから、日本の犬は吠えるのだろうか。

  毎日、散歩途中にいろいろな犬と出会う。中にはかなりの勢いで吠え立てる犬もいるし、おとなしく、のんびりと歩いている犬もいる。割合でいうと、吠える犬は3分の1にも満たないが、その犬の日常を思ってしまう。

  けさは、大型犬の「ボルゾイ」が私たちの前をゆったりと歩いており、追いつくと「あいさつ」を交わすように私の家の犬と鼻先を近づけた。そういえば、この犬が吠えたのを聞いたことはない。ボルゾイ君はきっと、幸せに暮らしているのだろうと思ったものだ。