小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1432 「物理学者は罪を知った」……  核は必要悪か?

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新年早々、北朝鮮の核実験(北朝鮮は水爆実験成功と発表)という物騒なニュースが流れた。このニュースを聞いてアメリカの核開発を担ったマンハッタン計画を主導し、原爆の父といわれた物理学者、ロバート・オッペンハイマー(1904―1967)の「物理学者は罪を知った」という言葉を思い浮かべた。 オッペンハイマーは1947年11月25日、マサチューセッツ工科大学(MIT)で「現代世界における物理学」と題して講演、原子力が兵器に使われたことについて、以下(概略)のように語った。(藤永茂ロバート・オッペンハイマー―愚者としての科学者』朝日選書より) 戦時中の最高指導者の洞察力と将来についての判断によってなされたこととはいえ、物理学者は原子兵器の実現を進言し、支持し、結局その成就に大きく貢献したことにただならぬ内心的な責任を感じた。これらの兵器が実際に用いられた(注、広島・長崎への投下)ことで現代戦の非人間性と悪魔性が容赦もなく劇的に示されたことも忘れることができない。野卑な言葉を使い、ユーモアや大げさな言い方でごまかそうとしても消し去ることのできない、あるあからさまな意味で、物理学者は罪を知ってしまった。そして、これは物理学者が失うことのできない知識である。 水爆の開発にも反対したオッペンハイマーは、その後、ジョセフ・マッカーシーが進めた赤狩りよって公職追放となり、生涯FBIに監視されながら62歳で世を去る。 現在、核兵器保有国はアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタンで、北朝鮮は核実験を繰り返している。そのほかイスラエル保有しているのではないかと疑われているし、イランも核兵器の開発段階にあるとみられている。 なぜ、核兵器を持つのだろう。核保有国の言い分は、核兵器が戦争の抑止につながるという核抑止論に依拠している。「核兵器保有はその法外な破壊力のために戦争を抑止する力になる。核兵器を使用しようとした場合、自国も相手国から核兵器による破滅的な被害を覚悟しなければならず、そのため最終的には核兵器の使用を思いとどまる」という考え方である。必要悪ということなのだろう。 しかし、自制心を失った指導者が現れた場合、世界が危機に陥ることを現代に生きる私たちは自覚する必要があるだろう。(歴史にifはないが)ヒトラー率いるナチス核兵器を所有していたら、世界の歴史はよりひどい状況になっていただろう。あらためて言うまでもなく、核兵器は人類には無用なものであり、絶対に廃絶すべき兵器なのだ。   写真 早朝の空には三日月と金星が見えた。静かな冬の夜明けである。