小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1170 シリウスへ到着の知らせ 夢で聞くhanaの吠える声

画像夢の中で、音を聞いた人はいるのだろうか。夢は寝ている間に現実のように感じる心象だという。これまで私の夢には色も音もなかった。だが―。飼い犬のゴールデンレトリーバ―のhanaが死んでもう少しで4カ月になる。この間、hanaの夢は見ていない。家族も同じらしい。今朝方(たぶん4時ごろ)寝ているにもかかわらずhanaの吠えている声が聞こえたのだ。夢の中だった。それはhanaが死んでから旅を続けていた、一等星「シリウス」へ到着したという知らせだったのかもしれない。

わが家のhanaはことし7月30日に11歳と1カ月で死んだ。肝臓をがんに侵され、死ぬ1カ月前からは歩くのもつらい状態だった。それでも死ぬ当日まで、用を足すために外に出た。頑張り屋さんだった。いま和室の床の間には上機嫌な顔のhanaの写真が飾ってある。

シリウス」とhanaについてのいきさつを知らない読者のために、以前書いたブログを再掲する。

≪地球から見える最も光っている一等星シリウス。冬に見える『おおいぬ座』群のリーダー役です。オリオンの近くにあるので簡単に見つけることができます。ハナちゃんはここに帰ったのでしょう」。こんなメッセージが、友人の一人から寄せられた。私は友人のメッセージのように、これからはシリウスからhanaが私たちを見守ってくれていると思うことにする。つらいのだが、今回はhanaの旅立ちの模様を報告する。

それは突然やってきた。夜、息が荒くなったhanaを心配し、次女が居間に布団を運んできて隣で寝たが、次女自身、こんなに早く別れがくるとは思わなかっただろう。hanaの様子が落ち着いたのを見て、家族は夜11時過ぎには消灯し、就寝した。時計は回り、30日になった。午前2時15分過ぎ、寝ていたはずのhanaが突然「ウーン」という唸り声を上げた。それに気づいた家族全員がすぐに起き出し、hanaの元へ行く。口から黒い液体を吐き出し、苦しそうな顔をしている。

娘が体をさすっていると、hanaは間もなく息をしなくなった。3人で体を障るが、もうhanaの呼吸は戻ってこなかった。「なんで私を残して行ってしまったの」と次女は言いながら泣き出した。妻は「hana、hana」と呼び続け、さらに「ありがとう」と言いながら泣いている。私は妻に合わせて「これまでありがとう」としか言えなかった。hanaを愛した長女に電話をして、「hanaが死んでしまった」と連絡し、次女に代わると、次女は「2時20分だったよ。突然、息をしなくなった」と言いながら、泣き続けた。

1時間後、長女一家が駆けつけてきた。2歳半になる孫娘は「玄関を入るときhanaがキュンと泣いたよ」と長女に言ったそうだ。遊び相手でもあった孫娘には、hanaの歓迎の声が聞こえたのかもしれない。それから、午後2時前に火葬するまで、私たちは交代でhanaの体に手を添え続けた。硬直は進んだが、なぜか体は温かい。いつものhanaのぬくもりのように思えた。

霊園内にあるペット用の火葬場で、1時間半かけてハナの亡骸を火葬にしてもらった。次女とおそろいのブレスレット、みんなでハナの回復を願ってつくった七夕飾り、知人からもらったお守りを一緒に入れた。hanaにとってはどれもが大切なものだったに違いない。hanaの遺骨は家族で拾い集め、小さな骨壺に入れて持ち帰り、写真とともに居間に飾った。家族で話し合い、時期を見て庭の一隅に埋めてやることにした。さびしがり屋のhanaを思ってのことだ。

思えばhanaが私の家にやってきてからというものは、私たち家族の生活の中心にhanaがいた。東日本大震災前には、長女に娘(私にとって初孫)が生まれ、強力なライバルが登場したが、いつしかhanaは孫娘の遊び相手になった。歩き始めると寝そべっているハナの背中に乗って、お馬さんごっこをやる。hanaは我慢して付き合うという光景が珍しくなくなった。hanaは10歳を過ぎて半年後の2012年12月、子宮蓄膿症という大きな病気にかかり、それ以来体調がおかしくなった。次第にシリウスへ帰る日が近づいていたのだ。

私はhanaが死んだあと、一度眠りにつくが、ふと目が覚め、なかなか眠れないという症状が続いた。喪失感という言葉があるが、たぶんそうしたものなのだろう。だが、友人からの「シリウスへの旅立ち」というメッセージをもらい、もう悲しむことはやめようと思った。

シリウスは地球から8・7光年(1光年は9兆4600億キロ)離れている恒星(太陽のように、自分で光を出す星)だという。シリウスに帰ったhanaは、私たち家族に幸せの光を届け続けてくれるに違いない。≫

このブログを書いた当時、私の心は暗かった。hanaとの別れがつらかったからだ。だが、友人からのメールで心が少し落ち着いた。以来、hanaはシリウスへの旅をしていると思い続けていた。それだけにhanaが吠える夢は、シリウスへ到着した知らせだと思ったのだ。シリウスは夜空に輝く星で最も明るく、光度は太陽の26倍、2月中旬になると午後9時前後に南の空に見えるそうだ。hanaは「シリウスに着いた私を忘れないで」と、私の夢の中で吠えたのかもしれない。