小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1125 神様の贈り物の時間を生きる… 愛犬をめぐる7つの物語

画像「3歳までは幼犬、6歳までは良犬、9歳までは老犬、10歳からは神様の贈り物」。スイスでは大型犬に関して、こんな言葉があるという。特にこの国が生まれ故郷であるバーニーズ・マウンテン・ドッグは短命であり、文字通り10歳過ぎると、この犬は急速に衰えていくようだ。馳星周の犬と家族をテーマにした短編集「ソウルメイト」(集英社)を読んだ。その中に、こんな悲しい言葉が紹介されていた。

この本に登場する犬はチワワ、ボルゾイ、柴、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークジャーマン・シェパード・ドッグジャック・ラッセル・テリア。そしてバーニーズ・マウンテン・ドッグの7犬種である。この犬たちと飼い主の姿を7つのストーリーにした短編からは、犬に対する馳のあふれる思いが伝わってくる。

震災で亡くなった独り暮らしの母親が飼っていた「風太」という犬を捜して原発事故の福島に行く「柴」、犬の余命がわずかと知らされ、最後の日々を軽井沢で送る「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」の2編は、特に「生と死」を際立たせる作品といっていい。飼い主とはぐれた犬たちのリーダーとして被災地で生き抜いた「風太」の物語は、動物の生命力の強さを感じさせる。一方、カーターという名前のバーニーズ・マウンテン・ドッグは、足の腫瘍から次第に衰え、亡くなる。「わたしの悲しみは深まるばかりなのに、カーターの身体は少しずつ冷えていく。わたしは神を呪い、世界を呪い、自分を呪い、いつまでも泣き続けた」。この物語の最後を馳はこう結んでいる。それは愛犬を失った人たち共通の悲しみといえるものだ。

この本には「マージョリィとワルテルに本書を捧げる。わたしはおまえたちから犬と暮らすということはどういうことなのかを学び、おまえたちの後に続く犬たちから学び続けている」という作者の言葉があり、さらに「犬の十戒」という詩(馳星周訳)も掲載されている。(新潮文庫「いつも一緒に」の中に、馳の「しあわせの使者」というエッセーがあり、馳が飼った2匹のバーニーズ・マウンテン・ドッグ、マージョリィとワルテルとの別れが描かれている)

1、ぼくは10年から15年ぐらいしか生きられないんだよ。だから、ちょっとでも家族と離れているのは辛くてしょうがないんだ。ぼくを飼う前に、そのこと、考えてみてね。

2、父ちゃんがなにをして欲しがっているのか、ぼくがわかるようになるまでは忍耐が必要だよ。

3、ぼくのこと信頼してよ。ぼくが幸せでいるためには、みんなの信頼が必要なんだから。

4、長い時間怒られたり、罰だっていって閉じ込められたりするのはごめんだよ。みんなには仕事だとか遊びだとか友達がいるでしょ?でも、ぼくには家族しかいないんだよ。

5、いっぱい話しかけてよ。人間の言葉はわからないけど、話しかけられてるんだってことはわかるんだ。

6、ぼくにどんなことをしたか、ぼくはずっと覚えているからね。

7、ぼくをぶつ前に思い出してよ。ぼくはみんなの骨を簡単に噛み砕けるんだよ。でも、ぼく、絶対にそんなことしないでしょ?

8、言うことを聞かないとか、頑固になったとか、最近怠けてばかりだと言って叱る前に、ちょっと考えてよ。食事が合ってなかったのかも。暑い中ずっと外にいて体調が悪くなったのかも。年をとって心臓が弱くなってるのかも。ぼくの変化にはなにかしら意味があるんだから。

9、ぼくが年をとってもちゃんと面倒見てね。みんなもいつか年をとるんだから。

10、ぼくの嫌なところに行くときは、お願いだから一緒にいてよ。見てるのが辛いとか、見えないところでやってとか、そういうことは言わないでよ。そばにいてくれるだけでいろんなこと、頑張れるようになるんだ。愛しているよ。それを忘れないでね。

このブログを書いている近くでは、今月1日に11歳になったゴールデンレトリーバーのhanaが寝そべっている。hanaも「神様の贈り物」の時間を過ごしているのだ。

犬の十の戒めに関するブログ