小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1112 被災地で見た野犬の話 わが家のhanaの話がアマゾン・キンドル本に

画像朝のテレビを見ていたら、16歳3カ月のゴールデンレトリーバーが出ていた。東京・渋谷の蕎麦屋の看板犬で、街の人に愛されているという。人間なら100歳を超える「おばあちゃんわんこ」と、ナレーションのアナウンサーが紹介していたが、なかなかいい表情をしており、歳を感じさせなかった。同じ種類のわが家の犬が最近体調不良なので、元気な先輩犬の存在が印象に残った。 わが家の犬は、昨年末子宮に膿がたまる子宮蓄膿症という病気になり、子宮を摘出する手術を受けた。回復はしたものの血液検査で肝臓の数値が芳しくないことが分かり、以後薬の投与を続けている。先日、処方してもらった薬が切れた後、散歩を嫌がり、歩くのもつらそうに見えた。動物病院で血液検査をしてもらったら、肝臓の数値がこれまでより高く、体調不良になったようだ。 あと1カ月余で11歳になるわが家の犬は、若く見えるらしく、動物病院の待合室で別の犬を連れた人に「若いですね」といわれた。最近、散歩の途中に犬の散歩をしている人にも同じように言われた。だが、見かけは若くても老化は確実に進んでおり、あまり無理がきかないことを今度の血液検査で思い知らされた。 この犬とのエピソードをこのブログでも書いているが、それをまとめたものをこのほど「わたしはハナ~あるゴールデンレトリーバーの物語」と題し、アマゾン・キンドルから電子書籍として出版した。その最終回・39回では原発被災地、福島・南相馬の話を紹介した。(以下、その概要) (ハナ)私の独り言とお父さんの日記を読んで、どんな感想を持ったでしょうか。100%の方が「幸せな犬だ」と思ったのではないでしょうか。その通りです。この家に引き取られてから幸せな日々を送っています。でも、この世の中には私のような犬ばかりではありません。つい最近、東北の福島に行ってきたお父さんは、散歩の途中でこんなことを話してくれました。それは私たちの仲間の悲しい話でした。 (お父さん)福島は原発事故でまだ多くの人が避難生活を送っているよ。レンタカーで福島市から伊達市飯舘村を通り南相馬まで行ったんだ。新聞やテレビでも数多く、取り上げられているので飯舘や南相馬は有名だよね。特に飯舘は6500人の全村民が避難した悲劇の村なんだ。自然豊かで、ある家の庭先には色とりどりの花が咲き乱れていた。でも、その家の人たちの姿は当然ない。どこかで避難生活を送っていて、家に帰りたいと思っているに違いないよ。 南相馬の浜に行くと、大津波の被害を受けた東北電力原町火力発電所があり、その近くの浜辺で夫婦と思われる高齢者が小さな犬の散歩をしていた。すると、この2人と1匹に向かって首輪をつけた中型の犬が走り寄り、まとわりついた。でも、しばらくすると、そこを離れて私に近づいてきた。首輪をつけているので、あの人たちの犬かと思った。私が「おいで、おいで」といっても、その犬は寄ってこず、悲しそうな顔をして、ヨタヨタしながら逃げて行ってしまったんだ。体が汚れきっていて、高齢者の飼い犬ではないことが理解できた。 今度の大震災では、飼い主に捨てられたり、飼い主とはぐれたりして野犬になった犬は少なくないそうだよ。あの犬も、もしかしたら、私が飼い主かと思って近づいたのだろうと思う。原発事故は多くの人の生活を蝕んでしまったが、動植物もその例外ではないと思い知ったね。 (ハナ)私には難しいことは分かりませんが、南相馬の仲間の話を聞いて悲しくてなりません。そんな逆境に置かれたら、私は生き延びる自信がありません。被災地で生き続ける仲間を尊敬し、エールを送りたいと思います。 16歳と長寿を誇る犬もいれば、厳しい野犬生活に追い込まれた犬もいるこの日本社会。犬に言葉があるなら、16歳の犬もハナとともに被災地の仲間に生き抜いてとエールを送るのかもしれない。
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「わたしはハナ~あるゴールデンレトリーバーの物語」はアマゾン・キンドルで。