小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1061 「アン」シリーズとは異なる世界 モンゴメリの苦悩をちりばめた最後の作品

画像カナダのプリンス・エドワード島を舞台に、ひたむきに生きる少女を描いた「赤毛のアン」シリーズの作家、ルーシー・モード・モンゴメリ(1874・11・30-1942・4・24)は67歳で生涯を閉じた。病死といわれていたが、近年孫娘が自殺だったことを明らかにしている。遺作である「アンの想い出の日々」(新潮文庫・上下、村岡美枝訳)は、晩年のモンゴメリの苦悩をちりばめたようなテーマを織り込んだ短編と詩が、明るくひたむきさが印象に残るアンシリーズとは異なる世界を作り出している。

アンシリーズは、世界各国で読み継がれているベストセラーで、5000万部以上売れたという。まさに人類の文化遺産的存在といっていい。しかし、作者のモンゴメリは、家庭的には恵まれなかった。夫は結婚8年後にうつ病を発症、モンゴメリは夫を看護しながら子ども2人を育て、作家活動も続けた。第一次世界大戦(1914-1918)も経験したモンゴメリは「アンの娘リラ」という作品で、銃後の人々の不安や悲しみを訴えた。

モンゴメリのこの後の作品は、1974年に「The Road to Yesterday」としてカナダで短編集が出版されたが、構成や内容にかなり手が加えられていたという。15の短編小説、41篇の詩とその詩に関するブライス家の会話を入れた本書の原本が2009年11月出版された「The Blythes are Quoted」で、第一次世界大戦を境に第1部と第2部に分かれ、第1部は大戦前、第2部は大戦後から第2次世界大戦の勃発までを背景としている。

モンゴメリの研究者であり、原本の編者・ベンジャミン・ルフェーブルは「作品全体から醸し出される雰囲気や世界観が、それまで書かれたモンゴメリのどの作品ともまったく異なっている。不義、不合理、絶望、女性不信、殺人、復讐、悲痛、憎悪、老い、死といった要素は、読者がモンゴメリと結び付けるものではないはずだ」と書いている。

たしかに、赤毛のアンシリーズに比べると、これがモンゴメリの作品なのかという違和感を持つ人も少なくないかもしれない。短編の中のアン一家はうわさ話や思い出などに出てくるあくまでわき役で、ルフェーブルが書いている通り中心人物たちの人生は決して恵まれたものではない。それでもかすかだが一筋の光も見えるという「考えさせてくれる」短編集なのだ。

私は、夫と同様、後半生に心の病と葛藤を続けたといわれるモンゴメリの思いが、このような作品を書かせたのかもしれないという読後感を持った。

赤毛のアンシリーズは、日本では翻訳家・児童文学者の村岡花子(1893.6.21-1968.10.25)の名翻訳で多くの人に読まれた。今回の訳者の村岡美枝は村岡花子の孫に当たる。

これまでの「赤毛のアン」に関するブログ

http://hanako61.at.webry.info/200609/article_22.html

http://hanako61.at.webry.info/200807/article_13.html

http://hanako61.at.webry.info/200804/article_4.html

http://hanako61.at.webry.info/200809/article_13.html

http://hanako61.at.webry.info/201012/article_5.html

http://hanako61.at.webry.info/201102/article_7.html