小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1039 セイタカアワダチソウ異聞 被災地で嫌われる黄色い花

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この時期になると、全国至るところで「セイタカアワダチソウ」を見ることができる。散歩コースの調整池の周囲にもこの花が群生して咲いている。秋の風物詩になった感があるが、最近、新聞に出ていたこの花に関するニュースを見て、複雑な思いを抱いた人が多いのではないか。 東京電力福島第一原発事故による放射能汚染のため、立ち入りが制限されている福島県内の休耕田でこの花が群生しているという記事がヘリからの写真とともに掲載されていた。それによれば、セイタカアワダチソウの黄色い花が、南相馬市浪江町双葉町などの休耕田や畑にあふれるように広がっているという。その記事には、セイタカアワダチソウは牛などの大型動物を隠してしまうほどの高さに伸び、根が地中50センチまで張っているので、この状態が数年続けば田んぼがだめになってしまうという農家の嘆きの声も紹介されていた。 北米原産のセイタカアワダチソウは、切り花用として栽培するために持ち込まれた帰化植物。繁殖力が強いのが特徴で、沖縄から北海道まで分布している。生態系を損ねる要注意外来生物にも指定され、嫌われる雑草の上位にランクされているようだ。この花がきれいだという声は聞いたことがないが、観賞用に栽培された時代もあるのだから、美しいと思う人もいるのかもしれない。 最近、この花の繁殖ぶりは一時ほどでななくなったといわれる。以前は調整池周辺もこの花で埋め尽くされた感があったが、いつの間にか黄色い花の範囲が狭くなり、楕円形のように存在する花の集団の周囲にはススキなどの在来植物が増え始めている。それはどのような理由なのか。調べてみると次のような事情らしい。 セイタカアワダチソウは、地表から深さ50センチくらいのところにある栄養分を根から吸収して成長する。かつては日本にもモグラとネズミが数多く生息、この動物たちは枯れた植物を食べて地表から深さ50センチの土の中で生活していたため、そこに肥料分も蓄えられた。日本には地中50センチという深い部分の肥料を元に成長する在来植物はなく、いわば競争相手がないままに北米から入り込んできた雑草が、これらの肥料を思う存分吸収して勢力を拡大した。 だが、モグラやネズミが農作物を荒らす動物として日本の各地で駆逐された結果、50センチ地中に肥料分は蓄積されず、肥料を吸いつくしたセイタカアワダチソウは、背丈も小さくなって繁殖力も弱くなってしまった。そのあとに在来のススキなどが生い茂ってきたというのである。 この結果、これから何十年もかけて次第にススキら在来植物が優勢になっていくのではないかとみられている。しかし福島の休耕田は人出が入らない限り、毎年秋には黄色い花のじゅうたんが出現するだろう。被災地でこの花は、嫌われる花の代表格になったといっていい。