小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

935 酒を飲む5つの理由 コリン・ウィルソンの「わが酒の讃歌」より

イギリスの作家・評論家のコリン・ウィルソンの「わが酒の讃歌=うた」(田村隆一訳)を読んだのは1976年(昭和51)のことである。この本はそのまま本棚の奥にひっそりと収まっていた。

ふと、本棚を漁っていて何気なく手に取った。副題には「文学。音楽・そしてワインの旅」とある。プロローグに出てくる18世紀の賢人・ヘンリーオールドリッチの言葉がいい。

「余のつらつら思うところにあやまちなくば、酒を飲むのには5つの理由がある。良酒あらば飲むべし 友来たらば飲むべし のど、渇きたらば飲むべし もしくは、渇くおそれあらば飲むべし もしくは、いかなる理由ありても飲むべし。」

5つの理由の活字は次第に小さくなる。最後は小さくて読みにくいくらいだ。確かに5つ目となると、もう理由ではないのだ。

人は何歳で酒を飲むのだろうか。現代の日本では未成年は飲酒禁止だが、コリン・ウィルソンが最初にワインを味わったのは19歳の時だそうだ。私はよく覚えていないが、ビールを口にしたのは20歳を過ぎていたかもしれない。まずいとしか思わなかったと記憶している。それがいつしかビールもワインもおいしいと思うようになった。

コリン・ウィルソンは、昼間はめったに酒を飲まないという。飲めば眠くなってしまうというのが理由だ。ほとんど一日中原稿を書き、午後6時15分前に辛口の白ワインを1杯だけ飲みニュースを見る。腹が減っていればアンチョビを乗せたライ・ビスケットやスモークド・サーモンを食べる。ニュースの後、音楽を聴き、赤ワインに切り替えるのだそうだ。

コリン・ウィルソンアルコール中毒に関しても考察している。「武器よさらば」や「老人と海」の米国の作家、ヘミングウエイについて「生涯を通じて潜在的アルコール中毒者だった」と指摘した。

続いて「彼は、人生は根本的に残忍で無意味であると感じていた。彼の作品が想像力の緊張を保っている間は、短期間アルコール中毒がストップする。しかし、彼の悲観的な哲学が彼を袋小路に追い込んでしまうと、アルコール中毒にすべりこむ。アメリカの作家は特にその傾向が強い」と書いている。

コリン・ウィルソンは現在80歳だ。博覧強記で知られた作家はオカルトや宗教にも詳しく、日本のオウムに関するインタビューで「新興の宗教はえてして教祖の死によって瓦解するか衰退する」と述べている。